うつはクスリでは治らない?

 いつか会社で同僚が「この年齢になると連絡のつかない同級生も多くなってくるよね。」なんていうのである。

「ああ、家族のクレカ使い込んで逃げ回ってるやつとか親の金嬢に貢いで溶かしたやつとかガチ恋勢の小学校教師とかね。」

「いや……そうじゃなくて……。」

 そうじゃなかったらしい。

「普通に結婚とか。」

 同級生はだいたい高校生のあいだにデキ婚してしまっているが、多分それも「そうじゃない。」気がするのでいわないでおいた聡明な円山である。

 円山の周囲にはアホが多い。概ねうつ病かニートかジャンキーか売人のどれかに属する。というのはお察しのとおりいわゆる〝類友〟なのであまり何をいわれてもつっこまないようにしている。

 先日、精神病院の講座で「違法薬物は精神疾患が悪化するのでやめましょう。」なんてことをやった。

「そもそも、どこで買ったらいいのかわかんないって。」なあんて患者は笑っていたが、まず前提が大間違い。ああいうものは〝どこで〟買うかではなく〝だれから〟買うかなのだ。無店舗販売なので(あたりまえか)アホに生きていると身近なアホが勧めてくる。

 さすがに覚醒剤はあまり聞かないが、向精神薬や大麻程度なら〝どこで〟ってあなたのとなりで売っている。

 あ、思いだしたようにいうけど円山はやりません。精神薬依存のやつとしばらく付き合っていたが(『うつ病患者に人権はない?』参照)、あれを見ていたらやる気が失せる。だいたい、煙草もやめられないのに違法薬物なんてやめられる気がしない。

 精神薬に手をだすタイプには精神状態を水平にしようとする気質があるようで、落ち込んだからアッパー系、アガりすぎたからダウナー系、サガりすぎたからアッパー系、というのがいわゆる〝カクテル〟の内訳だが、塩水と砂糖水を足して真水になる理屈がない。最後は手際の悪いのが作ったカレー鍋みたいになるだけだ。

 一方もうちょっと敷居の低い大麻の愛好家には二種類いるようで、ひとつはエンジョイ勢、ふたつはストイックに大麻を追究するガチ勢。

 おさななじみなので後者の家に何度か遊びにいったことがあるが、窓を潰して間接照明を設え、スピーカーからエイフェックス・ツイン、プロジェクターが写しだす『オーシャンズ』、趣味は瞑想、ヨガ……手土産に持っていったハンバーガーをかじっているだけでチルしそうな空気の中、

「まどかに読んでほしい本があるんだよ。」といって差しだされたのが御存知大麻堂発行の『地球一周大麻の旅』(忘れた)的な本であった。

 お前は俺をどうしたいんだ。

 彼の部屋で得た豆知識。

 一、大麻は深層心理にもぐるので、根っから深刻なうつ病患者は絶対バッドに入るのでやめておこう。二、普段なら超暇な時にしか見ないであろう映画『オーシャンズ』はチルしている時に最適らしい。機会があればお試しください。

 彼から聞いた怖い話。彼の先輩(もちろん大麻愛好家)が大量に質のいいのをせしめてほくほくしながら家に向かう帰途、警察官の職務質問に出会ってしまった。

 大麻はじつは使うことは罪にならない。単純所持が法に触れるのだ。進退窮まったその先輩、持っていた数百グラムの大麻をその場で全部飲み込んで、

「逮捕できるならしてみろ、バーカ。」と啖呵を切って堂々と帰宅したという。

「死ぬだろ。」

「これが案外死なないんだな。」

 豆知識、三。「見つかったら全部飲め」。四、「意外と死なないから」。

「その代わりキマリっぱなしで半年くらい帰ってこなかった。」大笑い。

「……。」どの世界にも業界ジョークというものがある。鉄板ネタらしいので機会があればお試しください。(そればっか)

 さてその後は健全に駅前の居酒屋へでかけた円山と友人である。その店では水煙草がえる。円山が喫ったことがないということでせっかくなので頼んでみた。冒頭で「つっこまないようにしている。」と書いたばかりだが、さすがにこの時ばかりはつっこんだ。

「肺に煙溜めるのやめろよ、一発でバレるぞ。」

「ああ、なんか癖になってて。」

 それから彼がホームレスをしたりホストをしたり〝嬢王〟を殴ったり裏カジノに就職したり面白すぎる話を聞いたのだが、本人が「俺が小説にする。」といっているのでここではやめておく。なんの用かってそれで呼ばれたらしい。

「キメて書いたら?」

「その時ほど面白くないんだよね。」とのこと。

 なので傍観者としては最後は、いちおうこういっておくしかないのである。

 クスリ、ダメ、ゼッタイ。

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