うつは神経質だとなりやすい?

 神経質な人間ほどうつになりやすい、といわれる。

 なんとなくおわかりかもしれないが、まるやまは神経質である。

 神経質、というと〝融通の利かない面倒くさいやつ〟的ニュアンスがあるが、実際うつ病患者の大半は融通の利かない面倒くさいやつなので間違っていない。

 神経質というのは妙な自分ルールが多いということだ。風呂場の石鹸の口が同じ方向を向いていないと落ち着かない、とか、カップ焼きそばの湯切りが甘くてソースがゆるいと許せない、とか。まあ、今ペヤング食ったからいうだけですけど。

 その〝こだわり〟が病気かどうかのいちばん簡単な判断基準は〝社会生活に支障があるか〟だ。毎日五時間も六時間も風呂を掃除してしまう、疲れ果ててネガティヴな気分で湯切りの甘いペヤングしかすすれない、となると生活に支障があるので病的ということになる。

 たとえば円山は首もとになにか触れているのが気に食わない。したがって丸首のティーシャツなど着れないし、あったとしても指でひっぱってだるだるにしてしまう。縛り首のイメージなのか?とも思うが、パンツのゴムも苦手でノーパンだ。同様の理由で、布団から首だけを出して眠ることができない。冬場など、

「苦しいよう。」

「重たいよう。」

「暑いよう。」と地縛霊みたいなセリフを吐きつつ毛布をかぶっているので、前述の理屈でゆき、病的ということになる。また、違う理由から足首を出すことができない。何に摑まれるかわかったものではないからだ。

「摑まれたって、いいじゃない。人間だもの。」

 たしかにそんなうつ病患者は見かけない。そんなみつをも見かけない。というか最近みつをを見かけない。居酒屋のトイレはピースボートばかりだ。

 ちゃらちゃら。ちゃらちゃら。

 話のそれついでに突然だが、これはなんの音だろうか。

「シルバーアクセ」? ノー。文章はよく読んで答えましょう。

いしじゅんいち」? ノー。時代はもう平成ではないのですよ。というか今回俺が古くてごめん。

 正解は〝ピルケースの中の大量の薬がゆれる音〟でした。

 またかよ、また薬の話かよ、という声が聞こえてきそうだが、うつ病患者にとり薬とは石田純一のみたいなものなのだ。ない、即、裸足。危なっかしくて外を出歩けたものではない。

 元来頭痛持ちの円山、思えばむかしからポケットにEVEを欠かしたことがない。

 頓服の抗不安薬に加え、EVE、ブスコパンといった市販の鎮痛剤、ついに処方された胃薬、便秘薬、鼻炎薬、二日酔いのためのハイチオールC、藁にすがる思いで買ったサプリメントなどが、円山の胸ポケットで毎日ちゃらちゃらと踊っている。腕時計の針で目を覚ますほど音に神経質な円山、鬱陶しいことこの上ない。ああ嫌だ、と思いつつやめられない、というのは病的だ。以前、職場の後輩に、

「薬局ですか?」といわれたと書いたが、

「薬局か?」とそれからさらにふたりにつっこまれた。

「もうそれでいいよ。」と返したところ、しばしば同僚や友人から頭が痛いとか腹が痛いとか相談されるようになってしまった。早い話が、薬くれ、ということである。

 ……市販薬も安くはないのだが、じつは案外、ひとの役に立つかもと考えるとちゃらちゃら音の不快感も目減りする気がする。そう、何事もポジティヴにとらえられれば、不快と思うものに神経質に反応しなくても済む、ひいては寛解に繫がるのではあるまいか。

 不揃いなシャンプーの口→「個性派集団」。湯切りの甘い焼きそば→「(水分を)ちょい足しアレンジ」。歯にはさまった取れない野菜→「ミニゲーム」。理不尽な上司→「夜に酒が進む」。寝てない自慢→「円山のほうが不眠なのでわざと負けてくれているいい人」。すべってるしもうやめようか。な? 「な?」じゃないが。

 そんな〝気づき〟を例の後輩に話したところ、

「嫌いなものを無理に好きになるのは、ポジティヴでもなんでもないですよ。」と渋い顔をされてしまった。

 ぎゃふん。

 駄目か? やっぱり古いか?

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