たのしいうつ病

うつは薬では治らない?

 まるやまは現在週に一度から二週に一度精神病院に通院している。うつが悪化して以来隔週刊の『イブニング』の購読にすら挫折した円山にはなかなか骨が折れる頻度だ。『ガン』って今どうなってんの?

 主治医にはさんざん会社を休めといわれており、

「本当は毎日顔を見たいのに。」と遠恋中の恋人みたいなことをいわれるし、せめて病院の近所のラーメン屋巡りを目当てに気力を奮い立たせていたら、どんどん腹が出てくるし。

 仕事をはい辞めますというわけにゆかないので、週に一度というのも主治医の妥協なのである。

 とはいえ以前「いいかげんこれは無理だ。」と会社の社長に話したところ、

「休ませなければ治せない医者は駄目な医者だ。医者を変えろ。」とありがたい助言をいただく始末。

 うつは薬では治らない。カウンセリングとの両立で、根本から考えかたを矯正できてかんかい(症状が表われない状態で落ち着くこと)するのだ。たとえるなら、ほこりっぽい部屋にいてくしゃみが出ると。鼻炎薬をめば一瞬症状は治まるが、部屋を片付けなければ完治しない、ということだ。

 このカウンセリングというのがまたくせもので、

「最近はどうでしたか?」とはじまるたびに

「きた!」と思う。一、二週間もあると結構いろんなことがある。サウナでオカマに「ゲイにモテない顔ね。」といわれたとか。(余計なお世話だ)いや、ここは病院だ。症状についてかれているはずだ。

「会社でうっかりミスが増えてきました。」

 いちおういうと、うつの症状にこういうものがあるのである。

「どうやったらミスを減らせると思う?」お前社長の化身か?

「えっと……デスクに付箋を貼ったり……ミスも全部メモを取って……確認をしっかりと……」気分は完全に〝駄目めな部下〟だ。主治医は何かをカルテに書きこみながら「なるほどね。」とうなずいて、

「次回はいつこれる?」

 教えろ! 質問の真意を! 医者の良し悪しはわからないが、とりあえずこの人こういうところがある。

 と、毎度病院にいくたびにいらん緊張をして帰宅するのだが、先日珍しく病院へゆくのが楽しみな回があった。本格的な心理検査を受けることになったのである。

 保険適用外で少々値が張る治療だ。もともと心理テストスレとか好きな円山、一度経験してみたかったのだ、ガチのやつ。ロールシャッハテストとかするんだろうか? 周囲の人間にも

「俺今度心理検査受けるんスよ!」と「USJいくんスよ!」くらいのノリで自慢しまくっていた。

 さて当日、わくわくと診察室に入ると心理士が

「これから十枚のインクの染みを見せます。」

 きたきたきたあ。もう、テンションが上がって思わず笑った。うつで治療にきてんのに。京都風にいうとロールシャッハテストをしゃはった。(意味なしギャグ)ロールシャッハテストとは、抽象的なインクの染みが何に見えたか、で内面を診察するいわば〝大真面目な大喜利〟だ。部屋で終日 bokete を眺めつつ、大喜利の腕を磨いてきたのである。

 で、どうだったかって。

 インクの染み。

 以外に見えるかい、あんなもの。無理矢理ひねりだしたのが「狐」「踊る人」「蛾」「バランスの悪い岩」……おもんない? 当たり前だろ、そんなの!

 三十分ほどかかって十枚の絵に答え終えたところで、

「ではこれから、どうしてそのように見えたのか説明してください。」

 モノホンにはそんな行程があるのである。くだらないことをいわなくて本当によかったと思いつつ、

「……これが目で……。」などと解説してゆく円山なのであった。

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