会社のやめかた
うつにがんばれといってはいけない?
あいかわらずポンコツに生きている。
ポンコツにも種類があり、運動音痴、うつ、不安障害、まぬけ、小心者、ED、博多ポンコツ、ギャグがお粗末、等々まあ全部自分のことなのだが、とりあえず最近、脳がフリーズする回数が増えてきた気がする。
家では布団の上でずっと倒れている。寝転がって何を考えているのかというと何も考えていない。家電ならとうに廃品だ。
無論、これではいかんという思いもある。たとえば先日もがんばって身を起こし、薬局でインスタントラーメンのコーナーを見ていたらなんとなく食欲が湧いてきた。
「辛ラーメンにしようかな。」「カップ焼きそばもいい。」「普通盛りにするかごっつ盛りにするか。」「オーソドックスにカップヌードルにしようか。」「出前一丁にしようか。」「五個入りのほうが得だな。」と、こんな普通のことで脳がフリーズした。
「俺は何が食べたいんだ?」
「俺はほんとうに食べたいのだろうか?」
「人間とはいったい……」(←誤作動)
はっと時計を見ると二十分が経過していた。
それでようやく、あ、俺やばいかも、と思った
うつ病の人間に「がんばれ。」は鉄板で地雷だとよく耳にする。最近になってわかってきたが、ようするに、結構がんばれてしまうのだ。
けれどもガソリンの切れた車のエンジンを無理にかけようとすれば故障する。その〝がんばり〟はいわばリザーブタンクのガソリンを消費しているようなものだ。だから、無理に外出し、食欲もないのにあるふりをしたらエンストしたのである。
他人にいってはいけないことは、自分にもいってはいけない。
数ヵ月前。まだ冬のさなか、どうしてもがんばらざるを得ない事態に出くわした。原付のナンバープレートが根もとからぽっきりと折れて紛失したのだ。
円山が乗っているのは円山にふさわしい(自虐)廃車寸前の古いスーパーカブで、会社の人間には
「円山さん、やられましたね。」といわれたのだが、正直ぼろぼろすぎていたずらされたともいい切れない。……というのは所詮無意識な自分にたいするいいわけで、ほんとうはその時、警察やら役所やらがんばらなければならない流れを予感して、とっくに脳がフリーズしていたのである。
無感情に普段かよっている道をきょろきょろ歩き、三駅でくたびれて交番で紛失届けを提出し、一週間経っても出てこなかったので休日に役所で再発行してきた。
バイク用品店でネジ用の接着剤を購入し、
「なんだ俺、結構動けるじゃん。」と思う。さあ、今度こそ大丈夫と思ったら数日と経たずネジ留めごと折れてまた紛失した。
もう、無。心も折れた。交番の若い警官に変な目で見られながら、
「盗難だと大変ので、破棄してまた再発行しなさい。」といわれて役所で再再発行したら新しいナンバーは
悪い冗談みたいだが本当だ。
円山にひさしぶりにもどった人間らしい感情が〝苦笑い〟だったことはいうまでもない。
このまま終わればきれいなのだが、今にして思えばこの時の〝がんばり〟が尾を引いて、のちのち大変な問題に発展してゆくのである。
(というほどおおげさな話でもないが、とりあえず次回に続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます