うつ病患者は手間ひまをかける?

 とうとう病院内に〝まるやまくんの不眠対策特別チーム〟(主治医・談)が発足してしまった。

「この病院の不眠のトップバッター(主治医・談)」

「うつの治療以前の問題(主治医・談)」とのよし。眠るだけならディプリバン(←マイケルのアレ)でもハンケチに染ませて吸えばよいが、同時に気分もアゲなければならないのだから難易度がエグい。

 以前主治医にフルニトラゼパムという、ググると出てくるのが〝まず致死率〟というおっかねえ睡眠薬を処方されたところ数日寝たきりになってしまった。

 ということで一計を案じた主治医の次の策は「副作用で眠たくなる抗うつ剤」作戦である。朝にんでいた抗うつ剤を夜に服むことにして、さらにじょほう(時間をかけて成分が溶けだす)性のある抗うつ剤を追加。そこへ短期型の弱い睡眠薬を重ねて寝かしつけようという作戦だ。

 ところでひとつ厄介な問題がある。

 抗うつ剤は効果のまえに副作用がでる。

 そんなわけでここ数日、すっかりパッパラパーになっていた円山である。とりわけ強くでたのが脱抑制の副作用で、文字どおり抑制が利かなくなる、簡単にいうとラリって飯を食いまくる(あるあるネタ)。

 翌日、床で目を覚ますと部屋に食器が散乱していた。頭も重たいが胃も重たい。なんのこっちゃと胃潰瘍の人が服む最強の胃薬(こんなんばっか)を服みつつ窓をあけて空気を入れ換え、これは睡眠薬のほうの副作用で途切れ途切れの記憶を辿ってみると、次第に自分が何をしたのか思いだしてきた。


 一、鷹の爪を二本輪切りにして種を取り除く。

 二、鷹の爪とにんにくをオリーブオイルで炒める。

 三、茹でたパスタを(二)で炒める。

 四、仕上げに生タイプのふりかけを混ぜる。


 クルクルパーが何こじゃれたもん食ってんだ。

 というわけで〝円山くんの不眠対策特別チーム〟に相談したところ、では例の徐放錠を残して種類をひとつ減らそうということになった。前向性健忘は睡眠薬の効果なので気持ち悪いが我慢してくれとのこと。

 翌日、床で目を覚ますと部屋に食器が散乱していた。

 またかよと思いつつ倒れた椅子を元に戻しながら(危なっかしいなあ……)記憶を辿ると、途切れ途切れに記憶がよみがえってきた。


 一、卵焼きを作って置いておく

 二、ファミマでハムカツを買ってくる

 三、トマトを輪切りにする

 四、卵焼き、ハムカツ、トマト、ハムカツ、キャベツ、スライスチーズ、サーモンを重ねて食パンではさむ

 五、パスタで止める

 六、食べやすい大きさにカット

 七、バジル、塩こしょうを振ったオリーブオイルにつけて食べる


 なんだか工夫と手間が増しているのである。

 ちなみに抗うつ剤の副作用が落ち着き、効きはじめるまでに二週間かかる。二週間後には枕もとにウエディングケーキでもあるんじゃないかと怯えつつ、今日も食器を片づける円山なのであった。

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