第24話 プールデート

「じゃあ、プールでね」


 更衣室の前で別れ、汐里と耀は別々の更衣室に入っていった。

 今日は、牧田から貰った招待券でホテルのプールに来たのだ。

 二十五メートルプールの他に、流れるプールやジャグジー、建物の中にはスパやフィットネスクラブなども併設されていた。

 これらの施設が一日使い放題というのだから、丸々一日いても飽きないだろう。


 屋外のプールに出ると、すでに耀はプールサイドにおり、女性二人と話していた。

 汐里が出てきたのを見て、笑顔で手を振ってやってくる。


「どうしたの? 」

「逆ナン……かな? なんか、声かけられちゃった」


 耀に声をかけてきた女性達は、汐里と同じくらいの年齢に見える。三角ビキニを恥ずかしげもなく着て、豊かなバストを強調するように腕を組んで立っていた。いかにも、ナンパされに来ました! というような二人組である。


「ちゃんと、彼女と来たからって断ったからね。大学関係じゃなかったら、別に隠さなくていいんだよね? 」

「それはまあ……」

「じゃあプール入ろうよ。流れるプール行ってみよう」


 耀は汐里の手を引っ張って流れるプールに入る。

 流れるといっても、所々勢い良く水流が出ているところがあるだけで、全体的には流れは緩やかだ。子供などが浮き輪に捕まって、ゆっくり流れていた。


「しおりん、仰向けになって。」


 耀が後ろから汐里の脇に手を入れ、支えるようにして汐里を仰向けに浮かべた。足がプカプカ浮き、青い空を見上げながらゆっくり流される。半分以上は耀が引っ張っているのだが、なかなか気持ちよかった。

 ただ一つ、耀の手が際どいところにあるため、気になってしょうがないというか、周りの視線が気になる。


「耀君、手が……」


 小さい声で、耀の手が汐里の胸に触っていることを告げる。いくら小さくても、さすがにわからない程ではないはずなのだが……。


「大丈夫、大丈夫。誰も気にしないから」


 確信犯だ!


「私が気にするの! 」


 汐里は真っ赤な顔をして耀の手から逃れ、ジャブジャブと歩いていく。


「しおりん、怒ったの? ごめんね、しおりんが可愛過ぎて、つい触りたくなっちゃうんだよ」


 後ろからウエストをギュッと抱きしめられ、耳元で囁かれると、汐里は足の力が抜けそうになる。


 いつだって耀は甘々でベタベタしてくる。

 汐里は、異性をこれだけ可愛い、愛しいと思ったのは初めてだった。耀の女友達のように、外でもベタベタくっつくことができたら、どんなにいいだろうとは思うものの、どうしても羞恥心が勝ってしまい、手を繋ぐくらいが精一杯なのだ。

 人前で水着でイチャイチャするなんて、レベルが高過ぎる。


「ジャグジー行ってみようよ」


 汐里は耀の腕を剥がして、ジャグジーの方へ引っ張っていった。


 ジャグジーは丸い形をしており、壁際からはジェット水流が出ており、下からも細かい気泡が勢い良く出ていた。

 隣り合って座ると、いい具合に肩や背中にジェット水流が当たり、下から出る泡は足の裏やふくらはぎ、太腿を刺激した。

 通常デスクワークが仕事の汐里は、あまりの気持ち良さに目をつぶって湯に浸る。


「気持ちいい……」


 至福の表情の汐里に、耀が腕を絡めてくる。


 わずかに肘が胸に当たっているが、それくらいは良しとしよう。

 手が太腿にのってきたが、……まあギリセーフ……かな?

 なんか内腿撫で回してるけど?


「耀君、おいたが過ぎるから! 」

「だって、プールでイチャイチャって、カップルの醍醐味じゃない? 」

「そういうのは、外でするもんじゃないから! 」

「そう? そうでもないと思うけどな」


 耀は、数組のカップルに目を向けた。

 確かに、イチャイチャしてるカップルは多いかもしれないが、ここは公共の場所だ。子供だって遊びにきている。


「ダメったら、ダメ! 」

「は~い。でもさ、手をつなぐぐらいならいいよね? 」

「まあ、それくらいなら……」


 耀は恋人繋ぎをして、ニッコリ微笑む。


 あー、なんでこの子は男の子なのにこんなに可愛いんだろう?

 かといって、女っぽいわけでもなく、男の子している時はしっかり男の子だし、汐里はドキドキが止まる気がしなかった。


 そんな二人を、歯をくいしばりながら眺める少女と、そんな少女を舐めるように見つめている男がいるのだが、汐里も耀も気がついてはいなかった。

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