第15話 新宿デート
汐里はかなり戸惑っていた。
耀との関係性についてだ。
あれから、耀は週末になると汐里の部屋を訪れ、泊まっていくことはないものの、まったりとDVDを観て過ごしたり、一緒にご飯を食べたりして帰っていく。
まだ身体の関係にはなってはいなかったが、常にベタベタしてくるし、キスは挨拶のようになっていた。好きだとか可愛いとかも、しょっちゅう言ってくる。
他の子にも、よく可愛いねとか綺麗だとか言っているのを聞くから、耀にしたら挨拶のようなものなんだろうが、正直汐里は言われ慣れてないから、ドキドキしてしまって困っていた。
もしかして、帰国子女なんじゃないだろうか? と、疑ってしまうほどで、外国生活の有無を尋ねたら、笑いながらないよと否定された。
大学でも、耀はいつもと変わることなく女友達は多いし、たまに見かけるとよく腕を組んで( 組まれて )歩いていたりで、自分もそんな女友達の一人なんだろうな……と思うと、せつないような気持ちになってしまう。
「しおりん、お昼何食べる? 」
土曜日の午前中、当たり前のように汐里の部屋を訪れた耀は、冷蔵庫の中の食材をチェックしながら言った。
最近では、汐里の部屋に台所用品や食材が増えてきていた。
耀が持ち込んできては、手料理を振る舞ってくれるからだ。手のこんだものではないにしろ、料理をしない汐里にしたら、素晴らしい! の一言に尽きる。
「今日は外で食べない? 昨日給料日だったからね。いつもご飯作ってくれてるから、おごっちゃうよ」
「まじで? じゃ、駅前に新しいイタリアンの店ができたんだよね。行ってみたいな」
二人でそろってアパートから出た。
ごく自然に手をつないでくる耀に戸惑い、手を握り返すことはないが、振りほどくこともできない汐里だった。
お目当てのイタリアンについた時、汐里の背中がポンッと叩かれた。
「汐里お姉さんお久しぶりです」
振り返ると、白いレースのワンピースを着た美麗が、日傘をさして立っていた。
ガチャガチャした街並みの中、一人避暑地にでもいるかのように涼しげで、美麗のいる場所だけ爽やかな風が吹いているかのようだ。
「久しぶり……美麗ちゃんだよね? 」
「はい。覚えていていただけましたか? 凄い偶然ですね。大学以外でお会いできるなんて」
本当に偶然だろうか?
休みの日に耀の家の周りをうろつくと言っていたし、耀をつけ回している可能性もある。
「そうだね。偶然……だね」
汐里に話しかけているが、美麗の視線は耀の顔をとらえてぶれない。自分の可愛く見える角度、表情を研究しつくしているのか、一般の男子ならボーッと見惚れてしまうだろうはにかんだような笑顔を耀に向けていた。
「
汐里はチラッと耀を見る。耀の笑顔はすっかり引っ込んでしまっており、不機嫌にすら見えた。
「私は別に……。耀君はどうかな? 」
人懐っこい耀だし、嫌だとは言わないだろうと思いながら聞いてみた。
「えっ? やだよ。だって、しおりんと二人できたんだし、幸崎さんとはあまり話したことないもの。しおりんだって、幸崎さんと仲良しって訳じゃないでしょ? 悪いけど遠慮してくれる? 」
汐里は驚いて耀と美麗を交互に見た。
まさか、耀がここまではっきり断るとは思わなかったし、断られた美麗もショックという感じがない。笑顔を顔に貼り付けたままなのが怖いというか……。
「そうですか? 残念です。じゃあ、別々に入りましょう」
同じ店には入るんだ……。
一見儚げな美少女のわりに、中身はオバサン並みに図太いかもしれない。
店に入ると、店員が三名様ですか? と聞いてきた。
耀が二人ですと答えると、汐里と耀は奥の二人がけ席に、美麗はカウンターに通された。
「耀君、美麗ちゃんと何かあった? 」
汐里は顔を寄せて、美麗に聞こえないように声をひそめた。
「何かって? 」
「……耀君って、なつっこいって言うか、人当たりはソフトな方じゃない? 彼女にはキツイというか、喧嘩でもしたのかなって思って……」
耀は、少し考え込むように黙っていたが、すぐに笑顔になり汐里の頬をプニプニとつまんだ。
「別に、喧嘩するほど話したことないし。ただ単に苦手なだけだよ」
本当にそうだろうか?
たまに大学構内で耀を見かける時がある。そんな時、少し後ろを見ると、美麗がいることが多かった。同じ速度で歩いているから、まるで仲良しグループの一員のように見えたが、耀のこの態度を見る限り、実際は全く無関係だったわけだ。
美麗がストーキング行為を繰り返しているのならば、何か被害を受けてたりするんだろうか? そうでなければ、耀のように人当たりのいい子がこんな態度をとるとは思えなかった。
詳しく言わないのが、耀の優しさかもしれない。
美麗の視線を感じながら食べるスパゲッティは、あまり美味しいものではなかった。
「ね、今日は映画でも観に行かない? 」
「映画? 」
「うん。デートしよ。映画は俺のおごりね。観たいのあるから」
約束通り店の支払いは汐里がすませ、店を出て電車に乗って新宿に向かった。
たまにチラリと白いワンピースが目の端をかすめるから、きっと美麗がついてきているんだろう。
新宿につくと、映画の始まる時間までゲームセンターで時間を潰した。
映画は深夜アニメの劇場版のもので、つい先日二人でTV版のDVDを見たばかりだった。映画館でも、耀は汐里と手をつないだままで、はたから見たら年の差カップルに見えたことだろう。
「この後どうしようか? 」
「お弁当でも買って、家で食べる? 」
学生の耀に散財させてしまったし、夕飯は質素にした方がいいだろうと思って提案した。
「うーん……」
耀はチラリと後ろを振り返ると、汐里の手を掴んで歩きだした。
途中コンビニでお弁当やビールを購入し、駅と並走する方面へ足を向ける。
こっちは……。
いや、曲がれば西武新宿線の駅あるし、近道的なものだよね?
耀と汐里はラブホテル街を歩いていた。
この一角は、どこを向いてもラブホテルがある。あとはホストやホステスなどのいるクラブとか。
まさか、お弁当持ってホストクラブもないだろう。
「ここでいいよね? 」
耀が立ち止まったのは、ごく普通のラブホテルの目の前だった。
ここ……って、ラブホテルですけど?!
エエッ!!
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