第14話 二回目の(やや不健全な)朝
朝、頭が痛くて、気持ち悪くて目が覚めた。
寝返りをうち、頭を押さえる。
視界がはっきりしてきて、思わず隣りを二度見する。
ここは汐里のベッド、もちろんシングルだ。
その狭いベッドで抱き合うように、汐里は耀の腕枕で寝ていたから。
汐里は、布団の下の洋服をチェックする。
二人とも昨日のままで、特にはだけた様子はない。
この間耀が汐里の家に泊まった時は、床で耀の膝枕だったが、今回はばっちり二人でベッドに眠っていたのだから、酔っぱらった勢いで何かあったのでは?と疑ってしまってもしょうがない。
「しおりん、おはよう」
汐里が布団をめくったりしたせいか、耀が目を覚まして汐里を抱き締めた。
「ちょっ、ちょっと! 」
「どした? 」
「いや、私達してないよね? 」
「えーッ!昨日あんなにいっぱいチューしたのに? 」
チュー?!
汐里は、青ざめる。二日酔いもあるが、記憶が微妙に定かじゃないから。
「嘘でしょ? 」
「酷いな。俺をもてあそんだんだね」
耀はいたずらっ子のような笑みを浮かべつつ、泣き真似をする。
「もて……。って、ええっ?! 」
汐里は頭を押さえた。
自分の声が頭に響いたから。
「思い出せない? これでも? 」
耀が、軽くチューする。
「ちょっと……」
「思い出してくれるまで止めないよ」
何回か繰り返すうちに、少しづつ濃厚なキスになっていく。
「やば、これ以上はやめとこ。しおりん二日酔いだし」
汐里は、頭がボーッとした。二日酔いだからか、耀のキスのせいかわからないが。ただ、この感触は記憶にある。なんとなくだが、断片的に思い出してきた。
「まじで覚えてないの? 」
「少し……覚えてるかも」
耀は、ホッとしたように小さく微笑むと、ベッドから起き上がり、汐里に冷たい水を持ってきてくれた。
「ありがとう。……あのさ、お互い酔っ払った勢いっていうか、その……」
「あのくらいじゃ、俺はシラフだよ」
「えっ? 」
「ほら、しおりんが飲酒は二十歳からみたいなこと言ってたから、一緒の時はあまり飲まなかったけど、まあそんなに弱くないほうなわけ」
耀は真面目な顔で汐里の前に正座すると、真っ直ぐに汐里の目を見て言った。
「騙すようでごめんね。あれは酔っ払ってふざけてじゃないからね。もちろん、お酒の勢いでもないから」
「……覚えてません。記憶にございません」
「政治家みたいなこと言わないの。それに少しは覚えてるんでしょ? 」
「それは……」
耀は、汐里のおでこをパチンとはじくと、汐里の腰に手を回し引き寄せた。
「ね、キスしていいでしょ? 」
「素面なのに? 」
「酔っぱらわないとダメなの? 」
「いや、なんか……」
そう言いながらも、耀の腕を拒むことも、耀の唇から顔を背けることもできず、目をつぶって耀のキスを受け入れる。
SEXはまだしていないから、キスフレンド? キフレ? キスフレ?
でも、こんなにキスしてたら、いつ関係をもってもおかしくないし、セフレになるのも時間の問題っていうか……。
二十五の女が、二十歳の男の子捕まえて、付き合わなきゃヤりたくないとか、そんな脅しみたいなこと言えない。
このままズルズルとセフレ決定なのかな?
つい身体をブロックするように、耀に手を回すのではなく、自分の身体の前で手を組む。
耀は、そんな汐里の動作に気づいてか、優しく汐里を抱き締めると、頭をポンポンと叩く。
「しおりんは可愛いね」
「なッ、私のが六つも年上なんだからね」
「今は五つだよ。しおりんの誕生日っていつなの? 」
「二月よ」
「何日? 」
「十日」
汐里はモゾモゾしながら答える。耀に抱き締められ、なんとも居心地が悪く、離れる口実を探っていた。
「じゃあ、八ヶ月は五つ差だね」
「……そうね。ねえ、朝ごはんどうする? シャワーも浴びた方がよくない? 」
ベッドの上で抱き締められているこの現象を打破しなくては!
「シャワーかあ。一緒入る? 」
汐里はボッと赤くなり、そんな顔を隠そうとうつむいた。抱き締められた状態でそうすると、意図せず耀の胸に顔を埋める形になる。
「う……うち狭いでしょ。一人づつ入らないと無理! お先にどうぞ! 」
「ふーん。広かったらいいんだよね。しおりん先でいいよ。色々準備もあるだろうから。俺の置きパンツあるよね? 」
「うん、シャツも。じゃ、先に失礼するね」
やっと耀の腕から逃れ、汐里はしまっておいた耀の下着とシャツを出し、自分も支度をしてユニットバスへ向かう。
シャワーを浴びてスッキリし、昨日の酒も少しは抜けた気がする。
それと同時に、話した内容はあまり思い出せないものの、数重ねたキスの記憶は甦り、二日酔いなどどっかいってしまうほど動揺してしまう。
「しおりん、トイレしたい! 我慢限界! 」
ドアが叩かれ、耀の悲痛な声が響く。
「今出る! ちょい待って! 」
汐里は慌ててシャワーを止めると、大雑把に身体を拭き、急いで洋服を着る。ジーンズがもたついて、すんなりあがってくれない。
ジーンズのファスナーを上げると同時に鍵を開けると、耀が凄い勢いで飛び込んできた。
汐里がドアを閉めるのを待たずに、ズボンを下ろす。
「もう! 閉めてからしなさい!
」
振り返ると耀の尻が見えてしまうため、ドアを開けっ放しで汐里は叫んだ。
「ごめん、ごめん。朝のトイレって我慢できないじゃん。しおりんはシャワーは終わったの? 」
「終わったよ。次どうぞ」
「じゃ、借りるね」
耀はトイレを流すと、部屋に置いてあるパンツとシャツを取りに来て、またユニットバスに戻った。
すぐにシャワーの音が聞こえる。
何か生々しいというか、全く無関係というわけでもなくなってしまった今、耀が裸でシャワーを浴びている( 凄く当たり前な話しなんだが…… )と思うと、ドキドキがおさまらず顔も上気してくる。
パタパタと手で顔を扇ぎつつ、欲求不満なんじゃ……と、自分で自分が信じられなくなる。
彼氏がいない歴五年。
特に不自由を感じたことはなかったが、自分が思っていた以上に溜まっていたのかもしれない。
だから、耀のキスも拒めないんじゃないだろうか?
身体だけの関係とか、はっきり言って軽蔑していた汐里だが、もしかすると耀とそうなるかもしれないと考えている自分がいて、それはたぶん拒まない……拒めないだろうなと思う。
年齢差がありすぎて、彼氏とか彼女とかで耀を束縛できないと思うし、かといって耀と知り合う前の自分には戻れない。
自分が欲求不満だから、こんな状況に陥ってしまったのでは?と、汐里は考えていたのだ。
まさか自分が、イケメンの年下 の男の子相手に恋愛感情を持っているとは、 更々思いもよらない汐里であった。
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