第11話 ある日の幸崎美麗

 耀君、いつになったら私の魅力に気がついてくれるんだろう?

 こんなに耀君のタイプに合わせてるのに。

 ナチュラル志向の化粧にしてるけど、造作が完璧だから、ナチュラルに見えないのかしら?

 スレンダーな子がタイプみたいだから、なるだけ食事を少なくしてるけど、胸だけどうしてもスレンダーにならないのがいけないのかしら?


 少女は、別に自分の自慢をしているわけでなく、真剣に悩んでいた。

 100均のレジを見つめながら、もう三時間以上品物を選ぶふりをしている。

 レジうちしているのは、少女が四年越しの片想いをしている耀だった。

 あと三十分もすれば、バイトは終わるはず。


 今日こそは声をかけてもらわなくちゃ!


 毎日、大学帰りやバイト帰りを狙っては、耀をストーカーしていた。本人にはストーキングしている意識はなく、まさか気味悪がられているとも思っていなかった。


 耀のバイト時間が終わり、レジうちを交代している。


 急いで出口にいかなくちゃ!


 少女は従業員出口にダッシュする。

 五分も待たずに、耀が出口から出てきた。


 偶然を装おって、なんとか視界に入らなくちゃ!


(以下、少女の妄想)

「あれ、美麗じゃないか? 」

「耀君、偶然ね」

「美麗みたいに可愛い女の子が、一人でこんな時間に出歩いたら危ないよ」

「可愛いなんて……」


 私は頬を染め、耀君はそんな私を眩しそうに見るの。

 耀君は私の肩に優しく手を回すんだわ。


「家まで送らせて。家はどこ? 」

「耀君のうちの近くなの」

「じゃあ、うちに寄ってく? 」

「そんな、お付き合いもしてないのに、夜遅くに男の子の部屋になんていけないわ」


 耀君の家の前まできて、耀君の手に力が入るの。


「美麗をうちに連れて帰りたい。もちろん、彼女としてだよ」

「本当? 」


 私は瞳を潤ませて耀君を見上げるの。

 耀君の顔が近づいてきて……。

(少女の妄想終了)


 少女が一人で悶えている中、いつの間にか耀の姿は消えていた。


「君、すっごい可愛いね。お兄さん達と飲み行かない? 」


 酔っぱらいの大学生にナンパされて、始めて耀がすでにいないことに気がつく。


 家に帰った?

 いえ、いつも耀君は少しプラプラしてから帰ってるから、きっと今日もどこかに寄ってるはず。


「ねえ、ねえ、彼女~?高校生? 」


 少女は冷たい視線を男達に向けると、口の端だけで微笑んだ。


「中学生です。お兄さん達、犯罪者になります? そこに交番ありますけど、中学生に飲酒すすめたって、言いましょうか? 塾の帰りなんで、失礼します」


 もちろん大学生ではあるが、ナンパ回避のための少女の技の一つで、たまに小学生になりきる時もあった。

 ナンパ男達になんかかまっている時間もおしい。

 少女はとりあえず耀の家の方角に歩きだした。


 そう言えば、鈴木汐里が言っていたわね。耀君とTSUTAYAで会ったって……。


 少女はTSUTAYAへ足を向けた。


 耀君!


 アニメの棚に向かう耀を発見し、少女の表情が輝く。

 この際、声をかけられるのを待つんじゃなく、自分から声をかけてしまおうと思い立つ。どっちから声をかけようが、最終的に同じならばいいのである。


「耀……く……ん」


 しりつぼみになる。

 耀が女性に親しげに声をかけたからだ。


 なんで?

 私に声をかけないのに、なんでそんな嬉しそうに鈴木汐里なんかと話してるの?

 なんで? なんで? なんで?


 二人はDVDを借りると、揃ってTSUTAYAから出ていってしまう。

 少女は慌てて二人の後を追った。


 十五分くらい歩いただろうか?

 コンビニの目の前にあるアパートの階段を上がって行く二人。一番端の部屋に消えた。

 少女は直立不動のまま、ただアパートのドアを見つめる。


 トイレを借りただけよね?


 三十分待つが耀はいっこうに出てこない。

 少女はコンビニの中に入り、雑誌の棚の前で汐里の部屋の前をはった。ここからなら、汐里のアパートの玄関が正面に見える。玄関の横にある小さな窓から明かりがもれていた。


 二時間が過ぎ、玄関横の小窓の電気が消える。


 えっ?イヤよ、ウソよ……。

 台所の電気が消えただけよね?まだ、耀君は部屋からでてきてないもの。


「あの……お客様」


 コンビニの女店員が恐る恐る声をかけてきた。

 少女は年齢よりも若く見えるし、二時間以上もコンビニに居続ける客ってのもあまりいないため、不審に思われたらしい。もしかしたら、家出娘とでも思われたのかもしれない。


「はい? 」

「あなたいくつ? もうすぐ十二時になるけど、おうちに帰らないで大丈夫? 」

「私、大学生ですから」


 少女は学生証を店員に見せた。

 少女の名前は幸崎美麗。大学一年となっており、顔写真も本人の物だった。


「あらあら、ごめんなさい。中学生くらいかと思ったものだから。でも、若い女の子がこんな遅くまで危ないわ。早く帰りなさいね」

「……。」


 少女は会釈すると、コンビニを出て汐里の部屋の窓が見える場所に移動した。

 窓を見上げると、部屋の電気は消えている。


 少女の中に、静かな怒りがこみあげてくる。

 今までも、耀の彼女は何人も見てきた。その度に、私の方が耀に似合っているのに! と、憤りを感じていた。けれど、たいていの彼女が半年以内に別れていたため、しているはジリジリしながら時間が過ぎるのを待ち、次こそは自分が選ばれるはずと、耀の周りを徘徊していたのだ。


 今度のは酷すぎるよ!

 私のどこが鈴木汐里に劣るっていうの?

 しかも、あんな年増女!


 少女はガツガツと地面を踏み鳴らす。


 一日だって、あんな女が耀君のそばにいるのには堪えられない。

 無理よ! 無理だわ!!


 少女はブツブツと呟きながら、視線は汐里の部屋の窓をじっととらえていた。

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