第16話 ラブホテルでの告白
「は……入るの? 」
「うん。ダメ? 」
そんな可愛い顔で首を傾げられたら、イヤなんて言えないじゃないの!
キスも拒んでないし、いつかはそういう流れになるんだろうとは思ってはいたけど、まさか今日だとは思っていなかった。
「ダメ……ってことはないんだけど」
「見物してる奴もいるしさ、とりあえず入ろうよ」
耀が耳元で囁き、汐里は納得した。
今日一日、視界の端にちらついた白いワンピース。それは今もきっと探せば見つかるのだろう。
汐里はうなずくと、耀の手を引っ張るようにラブホテルの中に入った。
小さい小窓があり、休憩でと耀が言うと、部屋の鍵が出てきた。
前払いらしく、耀がお金を支払う。
「払うよ」
「ここは男が払うとこでしょ? 」
いや、まあ、そうなのかもしれないけど、一時避難というか、美麗ちゃんに付きまとわれていたから入った訳だし……。
ここでお金のやり取りをしても、耀に恥をかかせそうだと思い、汐里は素直に財布を引っ込めた。
「明日は、私が全部払うからね」
「やったね! ということは、明日も一緒なら泊まりでもよかったかな? 」
部屋は三階だったため、狭いエレベーターで三階まで上がった。
エレベーターを下りると、ビジネスホテルのように部屋がズラリと並んでいた。
実はラブホテル初体験の汐里は、表情には出していなかったが、内心はかなりドキドキしながら回りを観察していた。
部屋に入ると、玄関からすぐには部屋の中は見えにくいようになっていた。
入って右手にお風呂が……丸見えだった。壁ではなく一面がガラス張りになっていて、丸いバスタブは大きめで、ジャグジーのようなものもついているようだ。
風呂の向こう側にダブルベッド、足元の壁に壁掛けのTVがあった。ベッドと風呂場の間に小さなテーブルと冷蔵庫が置いてあり、冷蔵庫の上には電子レンジもある
「とりあえずビール冷やすね」
耀は、冷蔵庫の中の物を取り出すと、代わりに買ってきたビールを入れた。二本だけ取り出すと、テーブルに置く。
「ご飯にはまだ早いかな? とりあえず乾杯する? 」
時間は五時過ぎ。
夕飯を食べるには少し早いだろうか?
「それとも、お風呂入る? 」
「えっ?! 」
汐里はビールを開けようと手を伸ばし、動揺してビールを落としそうになる。
「だって、前に広いお風呂だったら一緒に入ってくれるって言ったじゃん。ここのお風呂なら二人でも余裕でしょ? 」
「そんな話ししたっけ?? 」
「しおりんの部屋のお風呂は狭いから一緒に入れないって言ってたじゃん。つまりは、広かったらいいんだよね? ね、入ろう? 」
イヤイヤイヤイヤ……。
それは無理でしょ?!
耀は、汐里のウエストに手を回し、軽くチュッとしてきた。
「ここでキスはまずいよ」
ラブホテルだし、そういうことをしに入る場所な訳で、部屋のほとんどをダブルベッドが占領しているようなところでキスなんかしちゃったら、気の迷いが起こらないとも限らない。
「ほら、TVでも見ようか? 何かやってるかな? 」
「あ、待った! 」
汐里がTVのリモコンの電源を入れると、いきなり喘ぎ声が流れ、画面には、×××な映像が?!
汐里は硬直したままリモコンを握りしめ、内容を理解することすらできなかった。
固まったままリモコンを握りしめる汐里の手からリモコン取り上げると、ちょっと動揺した耀が頬をひきつらせながら笑った。
「アハハ、前の人達AV見てたんだね。AVチャンネルのままだったみたいだ」
耀の顔も赤くなっており、動揺しているように視線が泳いでいた。
「乾杯! 乾杯しよう! 」
汐里はビールを開けて耀に手渡した。自分も開けて乾杯すると、いっきに飲んだ。
「しおりん……」
耀がベッドに座り、隣りをポンポンと叩く。
部屋にはベッド以外に座るところはなく、しょうがなく汐里もベッドに腰をかけた。
「ごめん、実はラブホテルとか初めて入ったの。まさか、TVつけたらあんなん映るなんて……」
「びっくりしたよね。俺も話しには聞いてたけどさ」
話しには……って、耀君もラブホテル初めてなのかな?
意外だ……。
「お風呂ガラス張りとか、凄いよね。ちょっと見てくる! 」
耀はお風呂の中に入ると、汐里にブンブン手を振ってきた。
汐里も苦笑しながら手を振り返す。
「ジャグジーついてたから、お風呂入れてきちゃった。」
入れてきちゃったって、丸見えなのに入るつもりなんだろうか?
「しおりん、幸崎のことなんだけどさ……」
今まではしゃいでいた耀だが、ベッドに戻ってくると、真面目な表情になり、話しにくそうに口を開いた。
「うん、彼女、ちょっとストーカーちっくだよね。耀君のこと大好きなんだろうけど、ちょっとやり過ぎなのかな? 」
「まあ、つきまとうくらいなら無視するからいいんだけど……。そのうち、しおりんに色々吹き込んでくるかもしれない」
「例えば? 」
「女の子とイチャイチャしてたとか……その類いの話し」
「そんな話しして、美麗ちゃんは私に何をさせたい訳? 」
女の子とイチャイチャって、通常の耀の大学での様子を話されても、そうなんだ……くらいにしか思わないような気がした。
「嫉妬して別れるようにしむけてくるんだ。最初は全然気がつかなかったんだけど、前の前の彼女の時かな、別れ話しの時に俺の浮気話しは幸崎から聞いたって言われてさ、で、始めてあいつの存在を知ったんだよ。浮気なんかしてないのに、全然信じてもらえなくて……」
なるほど……。
周りをうろつくぐらいで、耀に積極的にアピールできないから、彼女の方に仕掛けてくる訳だ。
「それで、なんで私に? 別に、耀君が女の子とイチャついてるのはいつものことだし」
それとも、もっとハードな内容の話しを聞かされるんだろうか?
それこそ、キスしてたとかラブホテルに入ったとか。
それは、さすがに聞きたい話しではないな。
自分も友達の分際で、耀とラブホテルに入ってしまったし、こういうのをもし彼女が聞かされたら、そりゃ激怒りすることだろう。
彼女ならば……だ。
自分達の関係は際どいラインにはいるものの、いまだ友達だと思っていた。第一、付き合おうという話しは一度にもでていないのだから。
「いつものこと……って。そりゃ女友達は多いって言うか、女の子しか友達いないけど、彼女らはフレンド! 」
まあ、そうよね。
世の中にはSEXフレンドやらなにやら、フレンドには幅があるし、自分だってキスできちゃう友達だしね。
「大丈夫よ、あの子が何言ってきても、聞き流せばいいだけでしょ? 耀君にセフレが何人いようが、スルーしてあげるから大丈夫」
「あのね……」
耀が汐里のことをベッドに押し倒した。
ギューと抱きついてきて、耳元で囁く。
「なんか、しおりんに好かれてる気がしない……」
「えっ? 」
「だって、セフレとか言うし。しおりんはそういう相手がいる訳?」
「いる訳ないじゃん! 」
「俺だっていないし」
「いないの?! 」
いて当たり前みたいに思っていた汐里は、驚いて大きな声をだしてしまう。
耀はため息をついて起き上がると、汐里の手を引っ張って起き上がらせた。
「なんか、勘違いしてない? 手をつなぐのも、キスをするのもしおりん一人なんですけど。前にも言ったよ、キスしたのは彼女の数だけって。俺的には、しおりんにキスした時点で、彼女決定ってことだったんだけど」
汐里の頭の中が真っ白になる。
いや、だって、あり得ないでしょ?
私は耀君より五つも年上だし、見た目だってこんなだし。とても釣り合うようには……。
「俺がしおりんに本気だってこと、わからない? 気軽に考えてたら、最初に泊まった時に押し倒してるからね。俺くらいの年の男が、女の子と個室にいて手を出さないってないから。相手を大事に思ってるか、他に好きな女の子がいるかだよ」
「そんなこと……」
「あるの! しおりんは危機管理意識がなさ過ぎ! ほいほい男を部屋にいれたらダメだし、ついて行ったらダメ! 」
「はい……」
五つも年下に説教されてしまった。
耀は、いまだに思考が停止状態の汐里の頬っぺたをムニッとつまんだ。
「い……痛いれ( で )す」
「俺は、しおりんの彼氏のつもりでいたんだけど」
「そんなこと言われても……」
汐里は、頬っぺたを引っ張られ、まともに喋れない。
「俺としおりんは付き合ってるの! しおりんは、彼氏でもない男とキスしたり、ラブホにこれたりする子じゃないでしょ」
「いや、それはそうだけど……」
「なら、カップル成立ってことでいいよね? 」
「……私でいいの? 」
「しおりんがいいの! 」
耀は汐里の頬から手を離すと、頬を撫でるように両手で包み込み、優しいキスをした。
汐里は、認めるざるを得なかった。
年の差は凄く気になるけど、それ以上に耀に引かれている自分がいる。耀にキスされて、嬉しいって思う自分がいる。
「よろしくお願いします」
耀は嬉しそうに笑って、汐里をギュッと抱き締めた。
「お願いされました! 」
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