第5話 幸崎美麗
あれから一ヶ月、耀とはたまにご飯を食べたりアニメのDVDを見たりと、純粋な友達関係が築かれていた。好きなアニメがかぶることが多く、これも趣味が合うと言うのだろう。
年齢も違うし、性別も違う。
それなのになぜか居心地が良く、家を行き来していても、なんの心配もない異性の友達なんて、汐里には初めてだった。
友人自体少ない汐里にとって、耀は貴重な存在であった。
「あの~? 」
学生課の窓口に座っていた汐里は、オズオズとした女の子の声に顔を上げた。
目の前には、背の小さいフンワリとした笑顔を浮かべた少女が立っている。
色が白く、全体的に色素薄めな少女は、中学生か高校生かというくらい幼く見える。大きな二重の目が、小さい顔をより小さく見せていた。
「はい、なんでしょう? 」
「あなた、鈴木汐里さん? 」
「…はい、そうですが? 」
声まで鈴を転がしたように可愛らしく、同じ女性と言うのが恥ずかしいくらいだ。
この子の横には並びたくないな。
自分のコンプレックスが刺激されて、凄く嫌な気分になりそうだった。
「落とし物、なくし物ですか? 」
学生課の問い合わせで一番多いのが、実は紛失物についてだった。
拾っただなくしただ、学生課に集まる。後は講義に対する問い合わせや、サークル活動についても学生達はちょこちょこ学生課を訪れていた。
「いえ、そうじゃなくて……」
何か話しにくそうにしているのは、相談事だろうか?
学生の悩みを解決するのも、学生課の仕事だった。
「ここでお話ししにくいですか?奥の個室で伺いましょうか? 」
たまに、先輩から、教師からセクハラを受けたなどという話しもある。その手の話しだろうか?
「そんな、たいした話しじゃないんです。あの…鈴木さんに聞きたいことがあって」
「私にですか? 」
個人的に知っている子ではなかったため、汐里は戸惑いながらもどうぞと促した。
「あの!耀君…秋元耀君とはお付き合いしてますか?! 」
少女は頬を桜色に染め、潤んだ瞳で汐里を見つめた。
意表をつく発言に、汐里はポカンと少女を見つめ、それから全力で否定する。
「耀…君?私と耀君?ないない、あり得ないでしょ。彼、私より六つも下なのよ」
少女は、真っ赤な顔をして手を横にブンブン振っている汐里を険しい表情で見ていたが、すぐにニッコリとした笑顔になった。
「本当ですか?!良かったぁ。最近、耀君、お姉さんの話しをよくするし、付き合ったりしちゃったのかなって……」
お姉さん?
なんか、年の差を誇示されたような気がしたが、それは可愛らしいこの子に対するやっかみかもしれないと、黒い気持ちを振り払う。
「私、
もしかして?
この子、耀君のことが好きで、同じ大学を受験した口かしら?
それにしても、耀の取り巻きと言うか、友達の女子達とはタイプが違う。
耀の見た目がチャラいせいか、耀の回りも似た感じの今時な感じの子が多い中、明らかに清純派というか、化粧も衣服も流行りを追ってなく、自分の一番似合う物をチョイスしているように見える。
ある意味、汐里も流行りを追ってないという面では同じなのかもしれないが、汐里のは無頓着なだけかもしれない。
美麗は自分に似合う物を、汐里は地味で無難な物を選んでいたから。
「お姉さんのお昼休みって、あるんですか? 」
「そりゃ、もちろん」
「うちの大学、いつでも学生課あいてるじゃないですか?だから、いつお昼とってるのかなって」
「ああ、うちは交代制だから」
「お姉さんは、何時からですか? 」
「私?今日は十二時ね」
「じゃあ、十二時に来ていいですか? 」
「えっ? 」
たぶん、迷惑だみたいな思いが表情に出ていたんだと思う。美麗の瞳が、駄目ですか?と、悲しそうに揺れた。
「いや、いいんだけど、何をするのかなって。ほら、休みって、一時間ないくらいだから、お昼も食べないとだし」
「じゃあ、お昼、一緒しませんか?私はお弁当なんですけど。耀君のこととか、お姉さんになら話せそうかなって……。迷惑ですか? 」
「わかった。じゃあ、学食で。学食で待ち合わせしよう」
「わかりました。席、取っておきますね。ライン、交換してもらっていいですか? じゃあ、お昼休みに! 」
美麗は笑顔になり、パタパタと駆けていった。
「何、今の正統派美少女は? 」
同僚の由利香がいつの間にか後ろに立っていた。
「秋元君の知り合いみたいね」
「秋元って、…ああ、最近ちょこちょこ汐里に声かけてくる子ね。女の子の取り巻きが多い子だ。何、宣戦布告でもしにきたの? 」
「宣戦布告って、なんでよ。あの子はまあ彼のこと好きみたいだけど、私は別に…。年齢とか、性別とか関係ない友達っていうか」
由利香は、ふーんと汐里の顔をチラ見すると、友達ねぇとつぶやいた。
「耀……秋元君って、女の子と普通に仲良くできちゃうから勘違いされるけど、別にタラシとかじゃないのよ。本当に、純粋に、性別関係なく友達になれる子なの」
「そんな子いる?枯れたオヤジじゃあるまいし。下心がないなんて、いい若者が不健全このうえないわよ」
そうは言っても、数回二人きりで部屋でアニメDVDを見たりしたが、一度も危険に思ったことはなかった。
「汐里はさ、秋元君と恋人になりたいなとか、Hしたいなとかないわけ? 」
由利香がニヤニヤ笑いながら言うと、汐里は顔を赤くして否定した。
「はあ?ないない。だって、六つも年下なんだよ。うちらが高校生の時に、小学生だった子だよ」
「そりゃ、そう言えばかなり年下かもしれないけど、三十六と三十だったらあまり変わらないよ。七十六と七十はもっと変わらないしね。だから、年齢なんてあまり関係ないっしょ」
「そうかもしれないけど……。今の関係が居心地いいっていうか……、とにかく恋愛対象ではないから! 」
汐里は、この話しはおしまい!とばかりにPCに向かって仕事を開始した。
恋人?H?
私が耀君と?!
そんなおこがましいこと考えるわけないのに。
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