第7話 合コン

「汐里、今日合コンあるんだけどこない?人数合わなくなっちゃってさ」


 仕事終わり、由利香が声をかけてきた。

 事務員の更衣室で着替えていて、なるほどコンパらしく気合いの入った服装だ。化粧も、いつもよりもラメラメしている。


「パス」

「公務員との合コンだよ。汐里アパート近いじゃん。バスですぐでしょ?着替えてきても間に合うよ」

「いや、合コンとか無理」

「もう!無理とか言ってるから彼氏できないんだよ。とにかく参加決定!予定はないんでしょ? 」


 無理やり合コンに行くことになってしまう。


「着替えて……って言っても、別にそんな代わり映えする訳じゃないし、このままでいいよ」

「はい?って、その格好でいいわけ? 」


 白の半袖シャツにグレーの膝丈スカート。いつも通り無難な通勤仕様の格好である。


「駄目? 」

「駄目……ではないけど。じゃあ、せめてグロスくらいつけなよ」


 由利香に無理やりグロスを塗られ、いつも無造作に一つに縛っている髪の毛を、ルーズな編み込みにセットされた。


「まあ、こんなもんか。あと少しチークを足して。眼鏡はなんとかならないの? 」

「外したら歩けないよ」

「しゃあないか。じゃあ、ボタンを一つ外して」


 ほんの少し手を入れただけなのに、いつもの汐里とは違って見えた。


「これ、胸元見えすぎじゃない? 」


 シャツの第二ボタンまで外され、汐里はシャツの前を押さえて由利香に抗議した。


「なら、スカーフ貸してあげる。これまけば大丈夫でしょ。最後にこれね」


 寂しかった胸元に、ピンクのスカーフが巻かれた。薄い汐里の胸も、スカーフの厚みでややふっくら見える。その胸元に、由利香が香水をシュッとかけた。


 汐里は由利香の支度を待ち、バッチリ化粧を終えた由利香と、とりあえず女子の待ち合わせ場所に向かった。

 違う部署の女の子が二人、経理課の西田明里にしだあかり渡部英枝わたべはなえが、職員入り口のところで待っていた。

 二人ともバッチリ化粧をしており、和風美人の明里と、フンワリお嬢様系の英枝、派手系くっきり美人の由利香、みなタイプの違う女子が揃っている。


「あれ?もう一人って鈴木さんなんだ」

「うん、美鈴みすずが風邪ひいちゃって、急遽汐里に頼んだの。汐里、こっちの二人は経理課の明里と英枝」

「知ってる。鈴木汐里です。よろしく」

「汐里でいいからね。じゃ、行こうか」


 由利香が先頭に立って歩きだし、バスに乗って汐里のアパートを過ぎ、さらに耀のマンションも過ぎ、高田馬場の駅についた。


 合コンの場所は、駅近の居酒屋だった。

 店に入ると、予約がしてあって個室に通される。

 十人用の個室は、それなりに広く、とりあえず二人づつ向かい合わせに座り、男性陣がくるのを待った。

 会話は主に上司の悪口で、明里も英枝も面白可笑しく上司をディスッていた。


 十分もしないうちに男性陣が到着し、女子を挟む形で男性が座り、合コンが開始する。

 相手は公務員ということだったが、由利香が仕込んできた相手だけあって、チャラい感じの今時の青年って感じだった。

 汐里は、なんとなく全員の会話に参加しつつ、誰と喋る訳でもなく、夕飯を食べることに専念する。

 男性達も、汐里のことは眼中にないようで、もっぱら由利香を中心に会話が進んでいた。


「そろそろ時間だから、二次会はカラオケとかどうかな? 」

「いいね。汐里も行くでしょ? 」


 由利香に振られ、汐里はごめんと手を合わせた。


「私、ちょっと……」

「汐里ちゃん、行かないの?行こうよ」


 義理っぽく男性陣から声があがる。

 汐里が明日用事があるからと断ると、それ以上誘われることなく店を出た。店の前で由利香達と別れ、皆は向かいにあるカラオケボックスに、汐里は駅とは逆方面へ歩きだした。


 まだ夜の九時。

 アパートにすぐに帰るのではなく、TSUTAYAでDVDでも借りようと足を向けた。


 TSUTAYAにつくと、いつも通りアニメの棚へ向かう。DVDを手に取り選んでいると、後ろから声をかけられた。


「しおりんじゃん」


 振り向くと、スウェット姿の耀が立っていた。


「ビデオ借りにきたの?俺も。なんかいいのあった? 」

「うーん、これかな? 」


 つい最近終わったばかりの深夜アニメだった。

 最終回だけたまたま見たら面白く、最初から見てみようと思ったのだ。


「へえ、それ水曜日の深夜にやってたやつだ」

「知ってる? 」

「途中から見てた。いいな、俺も最初から見たい」

「じゃ、一緒見る? 」

「いいの? 」

「いい…んじゃないかな? 」


 いいの?と言われ、一瞬いいのか?と考える。これから一緒にDVDを観たら、確実に深夜になってしまうだろう。さすがに、いくら安心な相手とはいえ、耀も若い男の子だ。女友達と同様に考えたらまずい気もするが、今までも昼間だが一緒にDVD観てるし、夜だから何かするとも思えない。


「じゃあ、今日はしおりんのうちでビデオ観賞会しようよ。ほら、見終わったら帰るのに、女の子歩いて帰せないからさ」

「うち?いいけど、うち食べ物とか飲み物ないからね。買って帰らないと」

「了解。しおりんち、コンビニ近くだから、本当便利だよね」


 DVDを借り、歩いて十五分かけて汐里のアパートにつく。

 目の前のコンビニに寄り、お菓子や飲み物を買った。


「しおりん、ビール駄目?俺、来月に二十歳になるんだけど」

「駄目……と言いたいけど、お店じゃないからいいか」

「やった!しおりんも飲むでしょ?六本入りにしよう」


 汐里は自分がすでに飲んでいたのもあり、気が大きくなっていたのか、それ以外にも缶酎ハイを数本籠に入れた。


「保護者の私がいるからだからね。じゃなきゃ駄目なんだよ」

「うん、そうだよね。わかってるって」


 耀が荷物を持ち、汐里のアパートへ上がった。

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