年下の男の子が可愛すぎる件について!

由友ひろ

第1話 出会い

 耀ようと始めて会ったのは、大学でだった。


「佐藤先生の講座とりたいんだけど、空いてる?」


 見た目チャラそうな、片耳にピアスの茶髪学生が目の前に立っていた。後ろに、同類っぽい女子達を数人引き連れている。

 整った顔立ちをしているが、男っぽいというよりは、中性的なイメージの学生で、背は大きすぎも小さすぎもせず、どちらかというと華奢に見える。いかにも女友達が多そうなタイプだ。


 なんでタメ語?


 事務の鈴木すずき汐里しおりは、PCを開いて佐藤先生の講座の空きを調べた。


「佐藤義隆先生の講座でよろしいですか?」

「そう、それそれ」

「学生証をお願いいたします」

「はいはーい」


 秋元耀、十九歳、住所は新宿区高田馬場…。汐里の六つ下だった。

 二十五年間生きてきて、すれ違うことはあっても、親しくなることはまずないタイプの人間だった。

 というか、苦手なタイプだから、汐里から近寄ることすらないだろう。

 今は、仕事だから逃げることはできないが。


「ねえ、ねえ。お姉さん、それなんて読むの?名前。鈴木…?」

「しおり…です」


 耀が汐里の胸元のプレートを指差した。汐里はPCをいじりながら答える。


「汐里ちゃんか」


 ちゃん付けって…。


 汐里は、かすかに眉に皺を寄せつつも、手を止めることなく打ち込み作業を続ける。


「あのさ、今日飲み行かない?」

 

 汐里は、自分に言われてると思わず、返事をすることなく手を動かす。


「ねえ、ねえ、汐里ちゃん。飲み行こうよ」


 汐里は、びっくりして顔をあげた。


「あなた、未成年でしょ?」

 後ろにいた女の子達がわざとらしく笑う。

「やだ、マジメか?!」

「……」


 汐里は、バカにされた感じを受けながら、とりあえず無視する。


「登録終了いたしました」

 汐里は学生証を耀に返した。

「で、飲みは?」

「お断りします。未成年に飲酒をすすめたって、捕まりたくありませんから」

「ざーんねん。じゃ、二十歳になったら約束ね」


 耀達は、騒がしく喋りながら学生課を後にした。


「汐里、なに学生にナンパされてんのよ」


 同じ学生課の安西あんざい由利香ゆりかが、汐里の横に立っていた。


「そんなんじゃないわ。からかわれただけよ」

「あの子、有名よね。いつも女の子に囲まれてて、遊び回ってるって。なんか、ホストっぽいよね」

「そんな感じね」


 汐里は興味なさそうに、仕事をこなしがら答える。


「うーん、あたしなら行くけどな。目の保養になるじゃん。若い男の子!彼、かっこいいし。一晩だけの関係でもいいわ」

「バカなこと話してないで仕事しなさいよ」

「汐里は真面目なんだから」


 真面目というわけではなく、いたって経験が乏しいだけなのだが。

 汐里は、そういう話しが苦手だった。

 中高女子校で、専門学校も女子が多かった。なんとなく男子に苦手意識があり、自分から積極的に男子にアピールすることはない。

 彼氏がいなかった訳ではないが、好きで付き合ったというよりは、好きだと言われてなんとなく……という感じで、いつしか相手に浮気されて終了する……というパターンだった。

 

 数分もすると、耀のことは汐里の頭の中から消えていた。


 ◆◇◆◇

「汐里ちゃーん」


 仕事帰り、汐里がバスに乗ろうとしたとき、汐里は名前を呼ばれて振り返った。

 耀が、手を振りながら走ってきた。


「やっぱ汐里ちゃんだ。髪下ろしているのも可愛いね」

「からかわないで。バス行っちゃったじゃない」


 次のバスまで十分待たないといけない。


「バス通なんだ。俺もだよ」


 まあ、高田馬場だからそうだろう。実は汐里も高田馬場住まいで、アパートが近くであることは、学生証の住所からわかっていた。


「しおりん一緒帰ろ」


 しおりんって、いきなり距離縮めてきたな。


「あのね、私はあなたよりかなり年上よ」

「三十はいってないでしょ?」

「失礼ね、二十五よ」


 汐里は、ムッとしつつ答える。


「全然余裕。許容範囲内」

「あなたに許容されたいとは思わないんだけど」

「またまたあ、しおりん、クールだね。しおりんみたいに、真面目な眼鏡っ子って、そそられるよね」

「あなた、失礼ね」


 汐里は、バカにされてる気がして、ムッとした表情をあらわにする。


「ほんとなのに……」


 バスがきて、二人揃ってバスに乗る。

 バスはそれなりに混んでいた。


「しおりん、いい匂いだね。シャンプーかな?」

「ちょっと、そんなに近寄らないで」

「だって混んでるんだもん」


 汐里はなるべく距離をとろうとしたが、さらにバスが停まると客が乗り込み、混んでくる。


「あ、下ります」


 汐里の下りる停留所にバスが停まり、汐里は人混みをかき分けて下りた。


「なんであなたも下りるの?」


 耀までバスを下りていた。

 耀の住所なら、もう二つ先のバス停のはずだ。


「健康のため。いつも歩いてるんだ」

「そう。じゃ、さようなら」

「えー、なんかトイレ行きたくなっちゃったんだけどな」


 耀は汐里の後をついてくる。


「なら、そこにコンビニあるわよ」

「喉渇いたな」

「だから、コンビニあるって」

「チェッ。わかったよ。しおりん冷たいんだから。じゃ、またね。また一緒に帰ろうね」


 耀は諦めたのか、バスの行った方向へ走り出す。

 汐里は、少し疲労を感じた。


 あの手のタイプは苦手だわ。


 汐里はコンビニに寄り、夕飯の買い物をした。独り暮らしだから、手作りは食材が余りがちだという理由と、純粋に料理が苦手だったから、ほぼお弁当が夕飯になっていた。朝はパンかシリアルだから、自炊はほぼしていないといってよい。ちなみに昼は学食が多い。

 汐里は、買い物袋を片手に、コンビニ向かいの自宅アパートへ向かった。


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