第37話 別離
黒峰くんが語ったのは私が死んだ後、彼の身に起こった出来事。
そもそも私が死んだのは事故だった。
前世でたまたま黒峰くんとすれ違った時、階段で足を踏み外しそのまま落下。
打ち所が悪くて死んでしまった。
当時、私は黒峰くんに片思いしていた。
黒峰くんもまた私を想っていてくれたと言う。
後から職場の後輩に私が黒峰くんに片思いしていたことを教えられて、告白しなかった事をすごく後悔したらしい。
そして誰とも結婚しないまま歳を取り亡くなった。
気がつくと彼はジェード様の体に入り込んでいたらしい。
そして彼の婚約者となったアリスの姿を見た瞬間、アリスの体に前世の私の姿が重なって見えたと言う。
もしかして自分と同じようにアリスの体に私が入り込んでいるのかもしれないと思い、なんとかジェード様の体から抜け出そうとしたもののそれは叶わなかった。
そして数年の月日が立ち、私とジェード様がこの国に留学に来た時になぜかジェード様の体から黒峰くんは分離することが出来た。
実態を持たない幽霊のような存在として。
黒峰くんはこれ幸いとジェード様から離れて私の回りを浮遊していたらしく、そこで私が転生していたことを知った。
浮遊しているうちに黒い影を身に纏い自由に操れるようになったと言う。
そしてジェード様の体を乗っとれば前世で伝えられなかった思いを私に伝えられると考え、アンジュと手を組みジェード様を狙ったと言う。
「前世……そんなもの知った事か。アリスはお前ごとき渡さない」
黒峰くんの説明が終わると同時にそう言ったのはジェード様だ。
「お前らの様子見てれば無謀な事だってことくらい分かるっての。それでも諦めきれなかったんだよ」
呆れたように肩を竦めながらも少しだけ悲しそうに黒峰くんは笑う。
「その代償がこれだ。俺やアンジュが操っていたこの影。これは人の恨みや妬みが具現化した力なんだ、感情が押さえきれなくなるとこれは人を取り込む。アンジュみたいにな」
「取り込まれたら……どうなるの?」
「それは俺も知らないけど、今度こそ死ぬんじゃねぇの?」
黒峰くんは笑顔を絶やさずにあっさりと告げた。
まるで生死に興味がないみたいに。
そこに地面を掘っていたメアリーが戻ってきた。
「姫様、脱出の準備が整いました!早くこちらへ!」
メアリーが掘った穴は思いの外深く先に小さく光か見える。
「ありがとうメアリー。ジェード様、黒峰くん、とりあえずここから出ましょう」
気が付けば黒峰くんの張った結界は所々ヒビが入り今にも壊れてしまいそうだ。
「俺はいいからお前らは帰れ」
「何言って……」
「もともと俺は寿命全うしてんだ。やったことの報いは受ける」
「でも……!」
「それに俺がここから離れたらこの結界は維持できなくなる。お前らが向こうの世界に戻る前に影に飲み込まれることになるぞ」
黒峰くんを置いていけない。
けれどあの影に飲み込まれる訳にもいかない。
なかなか動けない私の背にそっと手が触れる。首を動かすとジェード様が私の背を支えていた。
「アリス、行きましょう」
「ジェード様………………わかり、ました」
私がいくら説得しても黒峰くんは一緒に来ないのを察したのだろう。
「……ごめん、黒峰くん」
「これは俺の自業自得だ。お前は気にすんな。それとジェード、今後こいつを泣かすような真似したら地獄の底から甦って今後こそお前の体乗っ取ってやるからな」
「安心しろ、お前に遅れは取らない」
「そうかよ。リア充爆発しろ」
黒峰くんの軽口に思わず苦笑が漏れた。
最後に別れの言葉を告げると私はジェード様に手を引かれメアリーの掘った穴に飛び込んだ。
自分の頬を濡らす涙には気が付かないフリをして。
この人は私の婚約者です!ヒロインはお断り! 枝豆@敦騎 @edamamemane
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