第9話 主人公-アンジュ視点-
私は両親に愛されていなかった。
父は仕事でいつも家に居なかった、たまに帰ってきては私の事を殴り付けてまた出掛けていく。
母は毎晩違う男の人を家に連れてきては二人で部屋に籠ってしまう、私の事なんか見向きもしない。
学校でも私は誰にも相手にされなかった、それどころか遊びの一環として持ち物は隠され壊され突き飛ばされたりもした。それが私の日常、当たり前の光景。
その終わりは突然やって来る。
小学校の高学年に上がったその日の下校途中、私を虐めていた女の子グループによって私は車道に突き飛ばされた。
迫ってくる車とブレーキの音、うるさいくらいの悲鳴の中で私の人生は終わりを迎えた。
感想を述べるなら「最後くらい痛くなくて良かった」くらいだろうか。
呆気ない人生だったと自分でも思う。
けれどこれでようやくいろんなものから解放されると思った。
なのに目が覚めると私は赤ちゃんになっていた。
自分の状況がよく分からなくて最初こそ混乱したけど、私の新しい両親はとっても優しくてたくさん可愛がってくれた。
私はこの世界に産まれて初めての『愛情』と言うものを知った。
そこからどんな事をすれば好意を得られるか、愛されるのか、という事を学んだ私は愛嬌を振り撒きとにかくいろんな人に愛された。
愛情や好意を向けられる心地よさを知って、さらにもっとたくさんの人に愛されたいと願うようになった。
その願いを何者かが聞き届けてくれたのだろう、私はある日急に『自分に好意を向ける相手の行動を操れる能力』を得た。
それは私に恋愛感情を抱く人間限定で使える不思議な力。
これを使えば王子様に嫁ぐ事だって夢じゃないかもしれない…
そしたら私はお姫様にだってなれる、きっと今以上に愛してもらえる!
そう思った私は王子様と出会うことを夢見て勉強に励み貴族や王族が通う学校に入学した。
今まで学んだ愛されるテクニックをフル活用して、私は王子様だけでなくこの国で王族の次に力を持つ人たちからの好意を得ることが出来た。
周りの女の子達が羨ましそうにしているのを見るのも気分が良かった。
自分は前世で眺めていたアニメのヒロインのように、素敵な人から愛される特別な存在なんだと信じて疑わなかった。この世界は私の為に存在するのだ。
そんな時やって来た護身術の教師、ジェード先生。
彼は私の好みドストライクだった。短い黒髪に切れ長の瞳、すらりとした体型。
全てが好みで、自分の妄想が具現化してしまったと思ったくらいだ。
今まで好意を寄せてくれていた王子や公爵子息達が霞むくらい、彼は魅力的に見えた。
けれど彼の傍にはいつも隣国の王女がいる。
……邪魔だなぁ…
とりあえず彼にこちらを見て貰えるようアプローチしながら、あの王女を引き離そう。
「…レイジ様、お願いがあるんです」
私は呼び出した王子に近付くとにっこりと微笑み、その瞳をじっと見つめ『お願い』を囁いた。
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