第5話 悪役令嬢
女子生徒を追い掛けてたどり着いたのは少し薄暗い校舎裏。
彼女は植木の影に身を隠すようにして座り込んで声を圧し殺しながら泣いていた。
「………どうかしたんですか?」
近付いてそっと声をかけると肩がびくりと震え、女子生徒が顔をあげる。
その人物は私のクラスメイトであり、今朝アンジュに注意していた女子生徒だった。
アンジュは彼女をリリアンヌと呼んでいた気がする。
リリアンヌは私に気がつくと慌てて立ち上がり深く頭を下げた。
「お、お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんアリス王女殿下」
「謝らないで下さい。何か辛いことがあって泣いていたのですよね?私の方こそ無神経に声をかけてしまって……泣いていた貴女が気になってつい」
気を遣わせてしまったのが申し訳なくなり眉を下げるとリリアンヌは慌てて首を横に振る。
「そんな事ありません……気にかけていただいてありがとうございます」
「あの、もし良ければお話聞かせてくださいませんか?話してみることで気持ちが楽になることもありますよ」
断られたら大人しく引き下がるつもりでそう告げるとリリアンヌは少し迷った後に口を開いた。
「……アリス王女殿下は転生をご存じですか?」
「てん、せい…」
「死んだ人間がまた別の体と名前を得て新たに人生を始めることです。生まれ変わりと似ているかもしれません」
リリアンヌの口から出た言葉に私の心臓がどくりと動く。
信じるもなにも私自身がその転生者なのだ。
もしかして彼女もそうなの?
聞いてみたい衝動に駆られるが迂闊に発言して『フォトン国の王女は変人』なんてレッテルを貼られたら困る。
今は聞き役に徹した方がいいだろう。
しかし私の心配など不要だと言うようにリリアンヌは自分の事を全部話してくれた。
自分は転生者であり、この学校は乙女ゲームの舞台と酷似している事。
加えて悪役であり一方アンジュは皆から愛されるヒロインである事。
アンジュに手出しなどしていないのに嫌がらせをしているように周りから思われている事。
このままでは自分は破滅してしまう事や誰にも相談できなかった事、記憶を思い出して破滅を回避しようと行動してきたけれど裏目に出てしまった事などなど。
私が信じないと思ったのだろう、最後に「こんな話、信じられませんよね」と締め括る。
「………誰にも相談できなかった事をどうして私に聞かせてくれたのですか?」
リリアンヌの話を聞き終えた私が気になった事を尋ねると彼女は目を伏せながら答えてくれた。
「私の知っている『乙女ゲーム』ではこの学校に王女殿下は留学されていないのです。王女殿下がここにいらっしゃる事はイレギュラー………ですからこんな妄想みたいな話をしてみようと思ったのかもしれません」
自嘲気味に笑うリリアンヌを見て私は腕を伸ばし彼女を抱き締める。
「王女殿下!?」
驚いて硬直するリリアンヌの頭をよしよしと撫でる。
私も転生者だけど……私には破滅フラグなんて無かったから怯えることも無かった。
でもこの子は違う、長い間誰にも言えなくて一人でたくさん頑張ってきたんだ。
自分の未来を変えるために。
誰にも言えなくて一人で抱え込んで、苦しくないわけないのに。
「頑張ったんですね」
そう呟くと腕の中でぴくりとリリアンヌが動く。
「……信じてくださるのですか?」
「私もそうだから。誰にも……大事な人にも言えなくて、一人でたくさん抱えて苦しかったよね」
私は自分もリリアンヌと同じ転生者であることを証した。
彼女はすがり付くようにぎゅっと抱き締め返してくる。
「……同じ人にずっと会いたかった…っ!頑張っても頑張ってもなにも変わらなくて……このままじゃ私、破滅フラグで殺されちゃう……そんなのやだ……私生きたいのにっ…でも味方なんて居なくて、ずっとずっと一人で寂しかったよぉ……」
ぐすぐすと泣き出した彼女の背中を優しく擦りながら、自分と同じ転生者に出会えたことを心の中で喜ぶのだった。
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