第3話 接触
学食に入ると食べたい物を選んで空いてる席に座る。
私が選んだのはパスタでジェード様は量が多めのランチセットを選んでいた。
食事は何度か一緒にしているけれどジェード様の食べる量は結構多くてやっぱり男の人なんだな、なんて妙に感心してしまう。
婚約してから今まで知らなかったジェード様の一面をたくさん知ることが出来きてその度にどんどん好きになっていく。こんな些細なことに私は幸せを感じていた。
「アリス様はいくつか授業を受けられたのですよね。この国の勉強は難しいですか?」
問い掛けられ私は顔を上げる。
「難しい……というほどではないと思います。といってもまだ初日ですから今後どうなるかは分かりませんけど」
「そうですか……もしわからないところがあったら遠慮無く仰って下さい。少しはお役に立てると思います」
「はい!ありがとうございます、ジェード様」
心配してくれるのが嬉しくて口許を緩めれば、ジェード様もこちらを見つめて微笑んでくれる。
そんな穏やかな食事を楽しんでいると割り込んでくる声があった。
「あ、アリス様じゃないですか!ここでお昼ですか?」
そう言って昼食の乗ったトレーを持ちながら私達のテーブルに近づいて来たのはクラスで一番最初に声をかけて来たアンジュだった。
なぜか後ろにレイジ含めた四人の男子生徒を引き連れている。
今朝の会話から察するにこの子は平民なのよね?
よく躊躇い無く声かけられるな……隣国と言えども私、一応王女なんだけど……不敬になるよね?
面倒な事になるの嫌だから注意はしないけど。
しかも王族含めた男の人を引き連れてるとか……乙女ゲームのヒロインか!
彼女が平民だとするならば声をかけられてクラスが静まり返ったのも頷ける。
「……アリス様、こちらは?」
突然現れたアンジュにジェード様が目を瞬かせた。
レイジとは顔合わせをしているがアンジュと会うのは初めてなのだから無理もない。
「クラスメイトの方です。今朝、挨拶をしていただきました」
そう紹介するとアンジュは嬉しそうに瞳をぱっと輝かせる。
「覚えていて下さったんですね!嬉しいです!あの、私のお友達も紹介したいのでご一緒してもいいですか?」
えへへと笑いながら首をこてんと傾げる仕草は愛らしくも見えるが、王子を連れていることによって私が断れないと考えた上で尋ねているのだろう。
その証拠に真っ先にレイジの方を向いて「いいですよね?」と確認している。
「俺からも頼むよ、アリス様」
レイジはそう言ってにこりと微笑むがその瞳には「断るわけないだろ?」という威圧が込められている。
「……えぇ、どうぞ」
「わぁ、ありがとうございます!」
アンジュは嬉々として椅子に腰掛ける。
ジェード様と二人で広く使っていたテーブルは、アンジュ含む五人が加わったことで少し狭くなった。
アンジュは私の隣に座りぴったりと距離を詰めてくる。
パーソナルスペースを無視してぐいぐい詰めてくるとか、この子遠慮無さすぎる……
少し不快だけど顔には出さない、だって私は王女だもん!
これくらい我慢できます、醜態を晒したりは致しません!
自分にそう言い聞かせて笑顔を張り付ける。
そんな私に気がついたのかジェード様は苦笑浮かべていた。
「アリス様、こちらの方って確か新しい護身術の先生ですよね!お知り合いなんですか?」
ジェード様をちらちらと見つめて恥じらう乙女のように頬を染めるアンジュに、もやっとしたものを感じながら私はジェード様を紹介する。
「えぇ、こちらは我が国の第一騎士団に所属していらっしゃるジェード・オニキス様です」
「宜しくお願い致します」
「こんな素敵な方が先生だなんて嬉しいです!こちらこそ宜しくお願いします!私はアンジュ・レンダーです。こちらは私と仲良くして下さってる方々です!」
そう言って彼女はレイジを含めた四人の男子生徒を紹介する。
紹介された男子生徒はいずれもこの国で高い地位を持つ貴族のご子息ばかりだった。
それだけではない、私達とレイジに面識があることを知らないのかアンジュはレイジの事も自分の『友達』だと紹介した。
……おかしくない?
仮にも王子が平民の女の子に紹介されるなんて。しかも王子を堂々と友達呼ばわりするなんて咎められないのかな?
違和感を感じている私に気がつくこと無くアンジュは楽しそうに話す。
レイジたちが彼女を咎める様な素振りは一切ない。
疑問に思いながらも私とジェード様は食事を進める。私達が食べ終えてもずっと喋っていたアンジュのトレーにはまだ昼食が半分以上残っていた。
食べ終わるまで付き合って上げる義理はないし、適当に抜けようかな……。
そう思いジェード様をちらりと見ると私の意図を汲み取ってくれたのだろう、空になったトレーを手にそっと立ち上がる。
「申し訳ありません、アンジュ嬢。私達はこれから理事長と約束がありましてそろそろ失礼させていただきます」
そう言って話を合わせるように私に目配せする。
「そうなんですか……お約束なら仕方ないですよね。分かりました!じゃあ、またお話ししてくださいね!」
あざといくらいに可愛らしく微笑むアンジュに見送られ、私達はトレーを片付け食堂を出る。
「アリス様、こちらへ」
出てすぐにジェード様は人目につかない様に廊下を曲がり、近くの誰もいない空き教室のドアを開けて入るように促す。
不思議に思いながら中に入ると、ジェード様はドアを閉めて深くため息をついた。
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