第4話 相思相愛

「……申し訳ありません、連れ出すような真似をして」


頭を下げるジェード様に私は慌てて首を横に振った。


「そんなことないです!寧ろ助かりました……少し苦手な方でしたから」


「私もです」


同じようにアンジュを苦手に感じていたらしい。

お互いに顔を見合わせくすりと笑ってしまう。


「何も無いとは思いたいですが、もし何かあったら私に教えてください。私が貴方をお守りします……騎士としてだけではなく、婚約者として」


そう言ってジェード様は私の事を優しく抱き寄せる。

伝わる体温は暖かくて、でもそれ以上に恥ずかしくて私は視線を少しだけ反らしながら頷いた。


「は、はい…!ジェード様のこと、頼りにしてます!」


「……………アリス。ジェードですよ」


不意に耳元でそう囁かれる。


「え、あのっ…ジェード様!?」


「ジェード、です」


私が動揺しているのを見て楽しむようにジェード様は耳元で繰り返す。

彼と婚約した直後、私から名前で呼んで欲しいとねだった事がありジェード様はそれ以来二人きりの時には名前で読んでくれる。

逆に私に呼び捨てにして欲しいと言われたけれど、羞恥心に負けて毎回呼べないでいる。


「まだ恥ずかしいですか?私はアリスと呼んでいるのに」


ジェード様が私の頬に手を添えて楽しげに笑う。

恥ずかし過ぎてジェード様の顔を直視できない。


「で、でもジェード様だってまだ敬語で……距離感がありますし……」


「アリスも同じですよ。寧ろアリスこそ私に敬語など不要です……あぁ、それとも敬語を外したら呼んでくれますか?」


こつんと合わせられた額に思わず悲鳴が上がりそうになる。


待って待って待って!

恥ずかしくてジェード様が好きすぎてヤバいです!!

このままだと私ドキドキしすぎて死ぬかもしれない!!



焦りだした私を見てジェード様は柔らかく微笑み、髪をさらりと撫でる。

視界の端で自分の金色の髪が揺れるのが見えた。



「アリスが慣れるまで待っていますから、いつか呼んでください」


「が、頑張ります……」


大好きな人の優しい声に私は自分より大きな体を抱き締め返すと小さく頷いた。







◇◇◇


しばらくジェード様と二人で過ごした私は午後の授業の準備をする為、放課後に会う約束をして自分の教室に戻る廊下を歩く。



しんどかった……いろんな意味でしんどかった!

ただでさえジェード様の事が好きなのにこれ以上好きになったら心臓がもたないっ!!



先程の甘いやり取りを思い出してはまた頬が熱くなる。

手でパタパタと顔をの熱を冷ましていると私の目の前を黒い髪の女子生徒が横切って校舎の裏側へと走って行った。

表情は泣いていたように見えた。



何かあったのかな……?

あまり人様のプライバシーに首を突っ込むのはよくないけど、可愛い女の子が泣いているのに放って置けないし……。

もし仲良くなれたら友達になってくれるかも?



私は彼女を追い掛けることにした。


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