第32話 影

朝になり目を覚ました私は動けなかった。

……物理的にも精神的にも。

なぜならジェード先生の腕に抱かれるようにして眠っていたから。



おかげで悪夢は見なかったけど……けど!何この展開!?誰かに見られて誤解されるやつなんじゃ……。



そう思っていたからフラグが立ったのだろう、ノックの音がしてリリが入ってきた。


「アリス、朝だよー。メアリーさんから頼まれて起こしにき……た、よ……?」


「リリ、これは違うの……!」


「……」


「無言でドアを閉めないで!?」



絶対誤解してるー!!



その後、ジェード先生を起こしたり、リリに状況を説明しなければいけなくて朝からどっと疲れてしまった。





◇◇◇


支度を済ませ、リリとジェード先生と一緒に学校へ向かう。

ちなみにリリの鞄の中ではぬいぐるみ姿のユーイがまだ寝ているらしい。

なんでも深夜まで調べものをしていたとか。


そんな話をしながら歩いていると後ろからタタタッと誰かが走ってくる音がして、不意にジェード先生に腕を引かれた。

なんだろうと思い首をかしげると、走ってきた人物は先程まで私のいた場所を勢いよく走り抜け、盛大に転んで見せた。


「いったぁい!」


わざとらしいくらいの甘ったるい声で瞳を潤ませるその人物はアンジュだ。

ジェード先生が腕を引いてくれなければ、私は彼女に突き飛ばされていたことだろう。


「アリス様……いきなり突き飛ばすなんて酷いです!それでも王女様なんですか!」


走って勝手に転んで言いがかりをつけてきたが、あまりにも雑すぎて残念でしかない。


「アリス様、さすがにこれは罰してよいかと」


隣に立つジェード先生が真顔で告げる。


「私もそう思います」


同意したその時だった。


「……なによ、偉そうに。本っ当にあんた邪魔」


アンジュの低い声がしたかと思うと彼女の足元から黒い影がぶわっと溢れこちらへと飛び掛かってきた。


「アリス様、お逃げください……ぐっ!」


「ジェード先生!」


影は私を逃がそうとしたジェード先生を一瞬で飲み込む。


「あはははっ!これでやっと欲しいものが手に入る、正しい世界になるのよ!」


アンジュは楽しげに笑いながら自ら影の中に飛び込んだ。


「リリ、メアリーに知らせて!」


「…アリス!?待って、行っちゃ駄目!」


リリの制止も聞かず私はジェード先生を助けるため影の中に飛び込んだ。

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