第28話 忘却

「いやああぁっ!」


叫びながらがばっと体を起こすと視界に明るい部屋が飛び込んできた。

真っ白い天井にカーテン、ベッド。


「アリス、大丈夫!?」


そして心配そうに顔を覗き込んでくるリリの姿。


「リリ……?私は、一体………」


すがり付くように腕を伸ばすとリリは私の背中をそっと撫でてくれる。


「職員室前の廊下で倒れていたの。ジェード先生が見つけて医務室までつれてきてくれたのよ。今お医者様がいらっしゃるわ」


「倒れた……私が?」


思い出そうとするが頭がぼんやりしてしまう。


自分に何が起きたのか全く覚えてない……何か怖いものから逃げていた気がするんだけど……。


リリに背中を擦ってもらうことで大分落ち着いて来たけれど肝心なことは思い出せない。

必死に思い出そうとしていると先生とお医者様がやってきた。


「目が覚めたんですね、良かった……!」


先生は安心したように私を見るとお医者様に見てくれるように告げた。

お医者様に簡単に診察して貰ったが体に怪我などは見られなかった。


「異変は見られませんが一応、今日のところは早退して様子を見た方がいいかもしれませんね」


そう診断され素直に頷く。

診察を終えたお医者様が帰るとリリが安心したように息を吐いた。


「良かった…本当に心配したのよ。ジェード先生も凄く慌ててたし……あんな先生の顔、始めて見ました」


「……リリアンヌ嬢、私はそんなに取り乱していましたか?」


「えぇ。さすがアリスの婚約者ですね、うちのユーイにも見習わせたいくらいです」


そう言ってくすくす笑うリリの言葉に私は目を瞬かせると首をかしげた。


「……ねぇ、リリ……いつから私は先生の婚約者になったの?」


その言葉に先生とリリの動きがピタリと止まる。


「……や、やだもう、アリスってば寝惚けてるのね。小さい頃からの婚約者なんでしょ?昨日だって皆の前で仲良くしてたじゃない」


リリにそう言われ私は眉を寄せる。

そんな記憶は私の中に無い。

それどころか目の前にいるこの先生とははじめましてだ。


「……………アリス、本当に覚えていないのですか?」


先生が震える声で問い掛ける。


「ご、ごめんなさい……その……先生とは初対面だと思うんですけど……」


「嘘、でしょ……ジェード・オニキス先生だよ?フォトン国から一緒に留学に来たアリスの婚約者!覚えてないの!?」


信じられないというようにリリが私の肩を掴み詰め寄る。


「い、痛いよリリ……」


「っごめん!」


ぱっと解放され恐る恐る先生の顔を見てみるもその無表情な顔からは何も読み取れないし、見覚えもやっぱり無い。

けれど彼はどこか酷く悲しそうに目を伏せていた。

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