第31話 執着-???視点-


「いやっ!!」


拒絶の声と共に俺の意識は弾かれた。

目を開ければ薄暗い天井が目にはいる。


くそっ、失敗したか


寝ている彼女の意識に入り込み、今朝のように不要な記憶を奪い取れれば良かったのだが今回は失敗に終わってしまった。

体を起こすと同時にカチャリと音がしてドアが開く。


「あら、起きたの」


不意に声がして部屋がほんのり明るくなった。

眩しさに目を細めれば寝巻き姿のアンジュが燭台を片手に部屋に入ってたところだ。


「どう?上手くいった?」


机の上に燭台を置いて楽しげに笑う顔から目を反らす。


「失敗した。今夜はもう無理だな」


「それは残念ね。まぁいいわ、私は私の欲しいものを手にいれるだけだもの。それにしても人の記憶がこんなに簡単に奪えるなんて驚いたわ」


そう言いながら椅子に腰かけたアンジュは机の上に置いてある小さな小瓶に目をやる。

手のひらで握り込めるほどの小さな小瓶には透明な液体が入っている。これは今朝俺が彼女を襲った時に奪い取ったジェードに対するすべての記憶を閉じ込めたものだ。

これが俺の手中にある限り、彼女はジェードの事を思い出せない。


「そんな事より、アンジュ。お前はどう動くつもりだ?」


今のところ俺ばかり働いていてアンジュは何も成果をあげていない。本当にジェードを手にいれるつもりはあるのだろうか。


「もちろん、いろいろ仕掛けているわ」


口許を歪めて笑う姿は悪人のようだ。


いや、まさに悪人か……。

俺もこいつも欲しいものを手にいれるために、あの二人を引き離そうとしてるんだから

だが悪いとは思わない。ジェード・オニキスさえいなければ彼女の隣に居たのは俺だったんだ……!


「あいつはくれてやるがくれぐれも彼女に手を出すなよ」


「分かってるわよ。まったく、貴方のその執着はもはやストーカーね」


アンジュは肩を竦めると燭台を残したまま自分の部屋に戻っていった。



ストーカー……か

あながち間違いでもないかもな



燭台の火を消して自嘲気味に笑いながら、次に行動を起こす体力を戻すため俺は眠ることにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る