第26話 撃退-ジェード視点-

ユーイの体はにたりと笑うがすぐに怨みの篭った眼差しでこちらを睨んだ。


「何を、言っている」


「だから俺はもう一人のお前なんだよ、ジェード・オニキス」


「戯言を……何が目的だ!?」


言葉の内容は理解できないが彼が自分を敵視していることは良く分かる。

早々に捕縛してユーイの体を取り戻した方がいいだろう、いつでも取り押さえられるように身構えると彼は持っていたナイフを首筋に当てた。


「おーっと、動くなよ?それ以上動くとユーイの体が死ぬぞ。俺は幽霊みたいなものだから死ぬことはないけど……この体はどうだろうな?」


「卑怯者め」


「目的のためなら卑怯でも構わないさ」


彼は楽し気に笑いもう片方の手を開いてこちらに向ける。


「その体、俺に寄越せ」


黒い影の様なものがユーイの体から染みだしてこちらに向かってくるけれどユーイの体を人質として取られている以上身動き出来ない。

どうにか撃退する方法は無いかと思考を巡らせていると、ガコンと音がして天井から人間が降ってきた。

その人物は呆気に取られている私にちらりと視線を向けた後、黒い影を睨み付けポケットから取り出した袋から白い粉の様なものを彼に投げつけた。


「そこまでです!食らえ、清めのお塩!」


「なっ……お前は……!?ちょ、痛っ……おいこれ塊入ってるぞ!?」


「いつか使えると取っておいたお清めの聖なるお塩ですよ、悪霊には効果抜群の岩塩入り!とある占い師のマダムに譲っていただいた高級品、出血大サービスです。持ってけ泥棒!」


「岩塩!?完全物理じゃねぇか!そんなサービス要らねぇよ!つか俺は悪霊とかじゃ…っくそ、覚えてろよ!」


黒い影はまたユーイの体に収まると私達を思いきり突き飛ばして逃げて行く。

残されたのは部屋中に散らばった塩と、恐らく私を助けに来たと思われるアリスの侍女、メアリーの姿。


「去り際の台詞が既に悪役ですね。何はともあれ退治完了です、次出てきたら私の『気合い』でユーイ様の体から引っこ抜いて差し上げましょう」


「……メアリー殿?」


「それではジェード様、私は仕事に戻りますからお部屋の片付けはお願いしますね。あ、お塩はあいつを払う効果がありますからこれを持ち歩いてください


そう言って彼女は私の言葉を遮ると無理やり塩の入った袋を握らせ、また天井から出ていってしまった。


「相変わらずだな…………………とりあえず掃除か」


塩まみれになった部屋を眺めながら私はため息をついた。

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