第17話 兄弟-レイジ視点-
フローライト国の第二王子。
優秀な第一王子の付属品。
王族のおまけ。
それが俺の肩書きだった。
六歳年上の兄上は本当に優秀で、流石次期国王だと誰もが称賛した。
小さい頃は兄上が大好きだったし、兄上が誉められると俺も嬉しかった。
それが逆転したのは俺が城で開かれたお茶会に兄上と一緒に出席した時からだ。
兄上はいつものように女性に囲まれていた。俺は皆から好かれる兄上をぼんやりと眺めていた。
一人のご令嬢がやって来て俺に挨拶をしてきたので、俺も習った作法の通りに挨拶を返す。
しかしそのご令嬢は値踏みするかのような視線をこちらに向けた後、扇子で口許を隠してく小さくため息をついたのだ。
「……第一王子の劣化版ね、女性を喜ばせる言葉一つも言えないなんてつまらないわ」
彼女は独り言のつもりで口にしたのだろう、声が小さくて最初は何を言われたか分からなかった。
ポカンとしている俺を残してご令嬢は兄上の元に行ってしまう。
数秒の間を開けて、俺は自分が馬鹿にされた事に気がついた。頭に血が登った俺はそのご令嬢に紅茶の入ったカップを投げ付けてしまったのだ。
その様子を見ていた侍女達は大慌て。
幸い冷めた紅茶が掛かっただけでご令嬢に怪我はなかった。
しかし、紅茶色に染まったご令嬢はわんわん泣き出して、俺は兄上からこっぴどく叱られた。
理由を話しても「あのご令嬢はそんな事を言うような子ではない、暴力で訴えるなんて最低の人間がすることだ」と俺は信じてもらえなかった。
兄上は弟の俺より赤の他人を信じるのか……!
その時から俺は自分を信じてくれなかった兄上が大嫌いになった。
口も聞かない、顔を会わせても無視。両親はいつも仕事で忙しくて俺と兄上が仲違いした事にすら気がついていなかった。
そんな事を繰り返していたら引っ込みがつかなくなってしまい気がつけば何年も時が過ぎ、俺はすっかり兄上への感情を拗らせてしまっていた。
そして、学校に入学した俺は両親や兄上の目が届かないのを良いことにやりたいように振る舞った。
王子という立場を利用し俺に逆らわない女性を集め侍らせたり、自分の評判を落とすような行動をわざとして兄上を困らせてやろうと思ったのかもしれない。
そこに現れたのがアンジュだ。
平民の癖に遠慮なくこちら側にズカズカ踏み込んでは、身分なんて関係ないとばかりに俺にはっきりものを言う面倒で厄介な女。
ある日、適当な女子生徒を捕まえて遊んでいるところを目撃した彼女に注意された。
「レイジ様は本当は評価されるべき方じゃないですか。知り合って少ししかたってませんけど私はレイジ様にも素敵なところがあること、ちゃんと知っています」
その言葉を嬉しく思ってしまった俺は、単純だったと思う。
けれど、誰にも自分自身を見てもらえなかった俺にとっては救いの言葉に思えた。
そして俺は彼女を目で追いかけるようになり、気が付けば彼女の望みならどんなことでも叶えてあげたいと思うほど執着していた。
しかし、彼女に呼び出され『お願い』を聞かされた後からだろうか。
俺の中にあったはずの彼女への執着が全く無くなっているのだ。
一時は彼女に俺を選んでもらい。いつかは妻に迎えたいとさえ望んでいたのに今ではその気持ちもさっぱり消えている。
彼女が扱った魔法の影響を疑った俺は学校の保健医を連れて、両親と兄上に報告した。
今まで勝手なことをしてきたのは承知だが、彼女の『魔法』は悪用すればこの国の未来を大きく変えてしまうものにもなる。そう考えたら下らない意地を張っている場合ではないと思ったのだ。
意外にも兄上は俺の話を信じてすぐに行動を開始した。
「……兄上、勝手なことをしていたこと怒らないのか?」
気まずく思いながらもそう口にした俺に兄上は眉を下げ微笑む。
「私はお前の言葉を信じてやれなかったことをずっと後悔していた、もし今度なにかあったら力になりたいとずっと思っていたんだ。あの時は信じてやれなくてすまなかった…」
兄の言葉に一瞬で俺の中のわだかまりが消えてしまう。いくら兄弟でも話さなければお互い理解できないと知った瞬間だった。
こんな些細なことで兄を許しまた敬愛するようになった俺は、やっぱり単純だと思う。
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