第23話 監視

リリがユーイを許すと決めたのなら私がそれについて口出しすることはない。

けれど一応レイジには知らせておくべきだろう、そしてアンジュに狙われているジェード様にも。


翌日の放課後、私達は報告会をする為に多目的教室に集まっていた。

ちなみに本日アンジュは普通に登校していたがユーイの体は来なかった。担任にそれとなく尋ねてみた所、体調が悪いので休むと連絡があったらしい。

これはある意味、好都合だ。

何か変な行動を起こされる前にこちらが対策をとれる。



私は多目的教室に設置された椅子に腰掛けると集まったメンバーを見渡す。

私、ジェード様、リリ、レイジ、メアリー………そして机の上に茶色いテディベアがひとつ。


「……これはなんだい?」


レイジが不審そうにそれを手に取ろうとした瞬間、テディベアはぴょこんと立ち上がった。


『レイジ殿下!僕です、ユーイ・ノイディです!このような姿で申し訳ありません』


目を見開いてユーイを名乗るテディベアを見つめていたレイジはどういう事だとこちらを見つめる。


生き霊となってしまったユーイはそのままでいると時間が経過に従って姿が薄れてしまい、会話すらできなくなってしまう事が分かった。

そこでメアリーの『気合い』の出番。

リリの部屋にあったテディベアの中に、ユーイを強引に押し込んだのだ。もちろん手掴みで。

その結果ユーイはテディベアという仮の体を手にいれた。

まさかそんな事が目の前で起きるとは思わなかった私とリリは暫く開いた口が塞がらなかった。

メアリーはもしかしたら超能力が存在する世界から転生してきたチート能力者なのかもしれない。


ユーイという動くぬいぐるみを目の前にしたジェード様も、理解できないというように首をかしげている。

そこで私達は昨日の出来事やユーイが見聞きした出来事を、二人に話して聞かせた。

ジェード様への説明は『魔法』の力を含めて最初から何もかも説明した。

怒られるかもしれないと思ったけれどアンジュの標的がジェード様である以上、話さないわけにはいかない。


説明が終わる頃にはメアリーが淹れてくれた紅茶は冷えてしまっていた。


「……………私の知らないところでアリス様はその様なことに巻き込まれていたのですね」


話を聞き終えたジェード様は私を見つめ眉間に深いシワを寄せる。

怒っているようにも悲しんでいるようにも見えて、申し訳なくなった。


「すぐに話せなくてごめんなさい」


「いいえ、私も迂闊でした。アリス様がその様な目に遭っていたとは……もっと徹底してお守りすべきでした。申し訳ありません」


「そんな!ジェード様は悪くないです、私が相談しなかったからっ……」


こちらの方が申し訳無くて俯く私の手をジェード様がそっと握る。


「もし貴女に何かあれば自分を許せないでしょう。私は何があっても絶対に……貴女を失いたくはない…」


「ジェード様……」


その言葉に顔を上げると熱の籠った瞳と目が合う。


「……………えーっと、とりあえず話を戻していいかい?」


レイジの呆れた声に私とジェード様は慌てて離れる。二人きりの世界に入りかけてしまったのが恥ずかしい。


「今分かっているのは、アンジュ嬢は人を意のままに操る『魔法』の力を持っている事。その力を使ってジェード先生を手にいれようとしている事、他にもユーイの体を乗っ取る事が出来る『魔法』を習得している可能性がある事………で間違いないかい?」


『……アンジュ嬢は複数の魔法に目覚めている、と言うことになりますね』


ユーイが腕を組んでふむ、とひとつ頷くがその外見はテディベアなので愛らしさについ和んでしまう。


「……少々宜しいでしょうか?」


ユーイを眺めていたらメアリーが発言の許可を求めるようにスッと手を上げた。


「なんだい?何かあったら気にせずに発言してくれて構わないよ」


レイジがそう告げるとメアリーは一礼して口を開く。


「恐れながら申し上げます。私にアンジュ嬢の動向を監視させていただけませんか?」


「……監視?」


首をかしげる私にメアリーはこくりと頷く。


「対策を立てるには情報が少な過ぎます。お時間をいただければ私がアンジュ嬢の身辺や能力を調べて参ります」


「……そんな事が出来るのか?……君はただの侍女だろう?それに俺の方でも諜報員を使って調べているが目ぼしい情報は得られていない」


目を瞬かせるレイジに問題ありません、と答えメアリーは私に頭を下げる。


「姫様、どうか許可を。すぐに結果を出して参ります」


「危険なことは絶対にしないと約束してくれるなら構わないわ。お願いできる?」


「お任せを」


私がそう頼めばメアリーはふわりと微笑み、瞬く間に姿を消した。

メアリーの事だ、恐らく隠し通路のようなものを見つけてそこに潜り込んだのだろう。本当にうちの侍女はハイスペックである。

フォトン国の城内でも彼女に限っては神出鬼没が当たり前なのだ。

それを知らないリリ達は目を丸くして「人が消えた!?」とか「今見ていたのは幻!?」とか騒いでいる。

結局、メアリーが退室した後は彼女がどうやって消えたかに論点が移ってしまいろくに話し合いが出来ないまま私達は解散することになった。

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