第13話 独占欲


「ジェード様は私の婚約者です。貴女が気安く触れていい相手ではありません」


ジェード様に自分の顔が見えないのを良いことにアンジュを睨み付けて言い直す。


「婚約者…?」


アンジュは信じられない、というように顔を歪めたかと思うとすぐに眉をつり上げた。



「婚約者ってどういうことですか…!もしかしてアリス様、自分の王女という立場を利用してジェード先生を無理矢理婚約者にしたんですか!?そんな酷い……ジェード先生!私がきっと先生を救ってあげます、だから待っててください!」


彼女は一方的に喚くと私を睨み付けて去っていった。



無理矢理だとか酷いとか、何も知らないくせにこんなに理不尽な侮辱されたのはアリスの人生ではじめてかも…ある意味新鮮で面白いなぁ…

それにあの子、ひどい被害妄想の持ち主みたい…なるほどこれが『悲劇のヒロイン』ぶってるというやつか。初めて見た。



呆れてため息をついたところで後ろから殺気が漂ってくる事に気が付いた。

「私の婚約者に触るな」とかもの扱いしてしまったから怒っているのだろうか…振り替えるのが怖い。

どうしたものかと悩んでいると低い声が聞こえてきた。


「アリス」


「……は、はい…」



怒ってる、この声は絶対に怒ってる!!



錆び付いた機械のようにぎこちない動きで振り替えるとジェード様は無表情のまま真っ白になるほど強く拳を握りしめていた。

こんなに怒ったジェード様を見るのは随分久しぶりだ。


「あの女子生徒…不敬罪で処分してもよろしいですか?」


怒りに震えるその声で告げたのはアンジュの事だ。


「…だ、駄目です、ここはフォトン国ではありませんから!」


「…ならフローライト国の国王に直談判いたしましょう。フォトン国の姫君を侮辱するのは我が国への侮辱と同じであると。それくらいならお許しいただけますよね?」


「は、はい…」


有無を言わせない雰囲気に頷くとジェード様は拳を開いてゆっくり息を吐き出し怒りを押し込める。

この人は本気で怒らせると結構怖い。



もし私が許可していたらアンジュをどんな風に処分するつもりだったのだろう…

うん、考えるのは止めよう。それより私に対して怒ってるんじゃなくて良かった…



ジェード様の怒りはアンジュに向けてのものだと知って私は安堵の息を吐く。


「…ところでアリスはこの時間まで何を?」


「一度寮に戻ったのですが忘れ物があって取りに来たんです」


抱えていた本を見せればジェード様は納得したのか頷く。


「そうでしたか。では帰りは寮まで送っていきます」


「大丈夫ですよ?寮まですぐですから」


ジェード様の手を煩わせるのが申し訳なくて辞退しようとすると、さらりと頬を撫でられた。


「…私がもう少し貴女と居たいだけです。どうか一緒にいてくれませんか?」


懇願するような瞳で見つめられ頬が熱を持つのを感じた。

彼にこんな風に頼まれて断れるはずがない。


「……お願いします」


こうして私は大人しく寮まで送ってもらった。

私の帰りが遅い事を心配していたメアリーが寮に前で待っていて、私達を見るなり生暖かい視線を寄越したのが少し恥ずかしかった。


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