ex10−2 魔法少女の微酔
四大属性魔法の初歩的な魔法を4属性共に成功してみせた少年は、汗を拭って自分で召喚した水を飲んだ。
「うん、よく冷えてる」
もう驚き疲れた私だが、その言葉には彼の底力を知らしめられた気分だ。初めて召喚した水が「冷えている」だなんて。
気にはなったが、流石に、冒険の最中でもないというのに1度口を付けた水を飲ませてくれと言える程の仲ではない。彼の土魔法の練習の為に召喚した砂を送還して、私は内心溜め息を吐いた。
「……魔法の才能を持ってたりするの?」
固定パーティという訳でもないのに持っている才能を知る資格なんてないけど、気になってしまうのは止められない。先天的に魔法の才能を持っていたなら、彼に関して気になるいくつかの疑問は解消する。
しかし、彼は首を横に振った。
「いいや、欲しいとは思うが……折角魔法を使える様になったんだし、要修行だな」
理論も基礎も抜きでイメージだけで魔法を使うなんて、それこそ修行を要する難度だというのに、微苦笑する彼には突っ込む気力も萎える。だから私は、「まぁ、精々頑張りなさい」と、彼の魔法に対するイメージや印象を邪魔しない程度の応援をするに留めた。
それからも、彼の質問に答える形で、魔法の知識を彼に教える。彼は探究心旺盛で、なるほど、その意味では実に冒険者らしい。
先生と生徒というより、師匠と弟子。この関係は、なんだか面白い。
独学でしかない私は、生徒を広く募集してお金をとって教えるような事はできないけど、彼1人を個人的な弟子にするくらいは、誰も咎めないはずだ。そんな未来構図を想像して、思わず微笑んでしまった。
「しかし……現段階ではこれが限界かな」
諦めを口にする彼に、私は思わず唇を尖らせてしまう。
「……センスあるのに」
しかし、イメージが全てという彼の現状、限界を定めてしまったなら仕方がない。その限界というイメージが、全てを阻害するからだ。
経験を詰み、技術と知識を貯え、その限界というイメージを克服する事で成長していく他ない。それこそが、魔法という学問なのだから。
ややあって、彼は頭を下げた。
「ありがとう。今日は良い勉強になったよ」
「いえいえ。これぐらい、安いものよ」
伸ばされた手を取って握手を交わす。
「魔法の指導が安いとは……景気がいいな」
「基礎の基礎だもの。貴方の吸収力には驚かされたけど……お金をとってまで教える様な技術ではないわ。剣の道で言えば、鞘からの抜き方をわざわざ教えた様なものよ?」
実際に、普通は酒の席の戯言程度の内容だったのだ。彼が魔法の発動に成功したというのが、異例なだけで。お金をとってまで教える事ではないし、中々に面白い物が見れたというだけでも余興としての意味はあった。
「このくらいの労で優秀な斥候と顔を繋げるならお易い御用よ。……だから精々、頑張りなさい」
とはいえ、少しくらい恩を売っておくのも良いだろう。
席を立ってから、次の探索に彼を誘おうという話になっていた事を思い出した。
しかし、振り返ってみても彼はもう居ない。困った。
いや、彼は基本的に『遠出』をしないようだし、余程運が悪く無ければ指名依頼を出しておけば捕まえる事ができるはずだ。しかし、いつもいつも指名依頼というのもつまらない。
なにより、今回はより本格的に、パーティメンバーとして誘おうとしているのだ。その第1歩が『依頼で仕方なく』というのはいかにも座りが悪い。
浮かれ過ぎた。お酒が入っていた所為に違いない。
流石に、宿に誘われて着いていく程酩酊はしていないけど、ほろ酔いのまま酒場で彼と一夜を明かすくらいなら……。
私が魔法の知識を教えて、彼が唸って。そんな夜も、悪くは無い。
明日は休みなのだし。
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