ex1−3 魔法薬師の青春
少年はそれからも度々私の店を訪れては、冒険の話をする様になった。
ボーイフレンドというより、子供に懐かれた様な。どこかくすぐったい関係。
私を女だからと見下さない、身体や財産目当ての上辺だけ取り繕った振る舞いでもない、無垢な弟が出来た様な。
少しばかり調合の手は止まるけれど、そんな事は気にならない位心休まる時間だった。薬草を卸しに来る商人や、噂を聞いてやってくる男客の相手をして溜まった疲れが抜けていく様な。
同時に、少年は教え甲斐のある生徒でもあった。
少年の採取する薬草の品質は、徐々に、確実に向上していったし、採取の手際も良くなっていっているようだ。彼が持って来る薬草1つ見るだけで、私が教えた事を1つ1つ身に付けて、実戦しているのだろうという事が伺える。
今度は何を教えようか。そう考えるだけで、私は楽しくなった。
少年がやって来るのはお土産がある時だけで、それはつまり薬草採取の為に外に出た時だけ。それは少年にとってまだまだ危険な行為で、無理をせず町中で活動しながら仲間を集って欲しいと思う。
少年が何日もやって来ないというのは無理をしていない証拠で、いい事の筈だ。物足りない、と感じる私の心にさえ目を瞑れば。
冒険者が死に戻りしたという話を聞くと、ついつい興味を引かれてしまう様になった。平時であればちょっとした事件だ。強力なモンスターの出現は商人にとっても重要な情報であるから、関心を向ける事自体はおかしな話では無い。
これまでだって、どこに出ていた冒険者なのか、どのくらいの実力なのか、どんなモンスターと相対したのか位は調べていた。けれど、死に戻りした冒険者の特徴まで聞く様になったのは、明らかに私の変化だ。
宿の女亭主に笑われてしまうのが、少しばかり悔しい。
少年は1週間ぶりにふらりとやって来て、いつもより少し多めの薬草を卸した。
「パーティに入ったんだ」
「へぇ? 良かったね」
「あぁ、ありがとう。今は荷物持ちぐらいしか出来ないけどね」
彼以外は男女2人ずつ計5人の、まったりやっている気の良い連中だと。いつか役に立つんだと張り切る少年に、私は微笑ましい思いで相槌を打ってその横顔を見守った。
残念な事にそのパーティは、酒の席のトラブルで解散したらしい。捕り物があったとか、降格された冒険者が出たという話は聞かないので、内輪だけで片付く程度の物だったのだろうけれど。
仲良しパーティが仲間に不信を抱いてしまったら、瓦解は早いだろう。私は風の噂からそう推察した。
私には落ち込む少年の愚痴を聞く位しか出来ないのだけど、お土産も無く少年が店に来る事はなかった。
◇◆◇
音信不通が1ヶ月。
流石に気になった私は、冒険者ギルドに足を運んだ。
指名依頼を検討していると言えば、簡単に冒険者の公開情報が纏められている資料室へ入れる。在庫の減ってきた薬草を採取して来て欲しいとは思っているので、まるっきりの嘘ではない。指名する程の依頼ではないと言えば、それまでだけど。
少年の活動履歴は、あっさり見つかった。凄く取り出しやすい場所にあったからだ。
そしてそれが偶然ではないという事は、軽く目を通しただけで判った。
とにかく活発だったのだ。模擬戦闘訓練には積極的に参加しているようだし、毎日町中での雑務系依頼を熟しているらしい。少年が頑張っているというのは、その履歴を洗うだけでも見て取れた。
このファイルが取り出しやすい位置にあったのも、更新頻度が高いからだろう。
やはり戦闘は得意ではないのか、討伐履歴は0。
採取系の依頼はちょくちょく熟している様子だ。思い返してみると、その履歴はアトリエにやって来た時期と重なる。案外ちゃっかりしているのが笑いを誘った。
現在は……パーティ無所属、遠出している冒険者の倒したモンスターを回収する下働きに出ているらしい。
つまり、後2日位は返って来ないだろうし、返ってきてもお土産はない訳だ。
少しばかり残念ではあるけれど、仕方がない。
私はちょっとした悪戯を彼に仕掛けて、冒険者ギルドを後にした。
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