本編5万PV記念、4無名指揮者の裏話1
ex4−1 無名指揮者の苦悩
もし、己の実力を顧みず、如何なる敵にも正面から挑みかかる事を勇気というのなら、勇敢というなら、私は臆病で良い。冒険は、遊びではないのだから。私の命はギャンブルの掛け金ではないのだから。
寿命を削ってまで、彼等の
そんな私の考えは、中々異質らしい。
何度パーティを経験しても、長続きしなかった。他人がリーダーであっても、私がリーダーであってもだ。私はメンバーの命の為であれば命令を無視したし、全体の保身を第一に置く私の指示に嫌悪感を露にする人も少なく無い。
本当に、世渡りというのは、一筋縄では行かないようだ。
私が女というのも、小さく無い原因なのかも知れない。おおよそ、全ての事柄に置いて男性優先。女性を立てるなんて考え方は、歴史の彼方に消えた幻想だ。生きる時代を間違えた——なんて、神様に悪態をついても何にもならないが。
何にせよ、ままならない。
それでも、案外私の幸運も捨てた物ではないらしい。
いつも通り喧嘩別れをした帰り道、そのパーティで同道した女性冒険者2人に声を掛けられた。
「これからも、貴方の盾を努めさせて欲しい」
「——これはこれは、熱烈な告白だね。でも私は、どちらかと言うと男の子が好きなんだが」
思いがけない言葉に咄嗟に冗談を返してしまった私を、2人は笑った。息苦しさも含む物もない、純粋な笑顔だった。
「違うよー。ちがうちがう。そうじゃなくって、これからもパーティ組みましょうってお誘いなの」
どうやら、棍棒使いの彼女には冗談だと通じていなかったらしいが。
彼女の言葉で、盾の扱いが他の同格冒険者と一線を画す女性冒険者も肩の力を抜いた。あまり表情が変わらないので判り難いが、緊張していたようだ。
「ああ、いや。……私で良いのか?」
弁明、或は反論しようとして、すぐに必要のない事だと思い直し、重要な事を確認した。なにせ、今しがた喧嘩別れしたばかりで、私の方が異質であるという自覚があるのだから。
戸惑い混じりの私の言葉に、盾の女性冒険者が真っ直ぐ視線を返してくれる。
「もちろんだ。——仲間を大切に出来ない様な者の下で、盾は構えられない」
清々しい程真っ直ぐな、見惚れそうになる程真っ直ぐな立ち姿は、その心根を映しているのだろうか。もしかしたら、騎士の家の出なのだろうか。……名を捨てているなら、探るべきではない事だ。
そんな事を考えていると、
「私は難しい事は判らないけど、今日はすっごく楽しかったから!」
という言葉とともに、無邪気の精霊の様な笑顔で、棍棒の女性冒険者は抱きついてきた。
警戒をするのも馬鹿馬鹿しくなる程の無遠慮憂さに、私はいつの間にか肩に入っていた力を抜いた。
もし私が引退後に自伝を書くなら、多分、その始まりの日は今日だ。
◇◆◇
全員盾を扱える前衛系3人組だ。分不相応な挑戦をしなければ、案外どうにかなる。
それでも、流石に怪我は怖いので
大抵の場合は、長続きしない。私が指揮を執る事に反感を示してそもそも破談になる事もある。だから、私達は常に貯金を置いておく様に気をつけながら、安定重視で活動を続けた。
背中を任せられる相手がいるというのは、背中を任せてくれる相手がいるというのは、心強く、気合いの入るものだ。
「人は、人を護る時こそ真価を発揮できる——なんて言うが」
足を引っ張り合うのではなく、お互いの長所を生かし合う事が出来れば。理想論、根性論なんて笑えないかも知れない。
だから、私達は研究した。お互いの癖を。お互いの特技を。お互いの呼吸を。
私と盾の女性冒険者が動くのも億劫になるほど組み手を重ねても、まだケロッとしている棍棒の女性冒険者は、本当に基礎力の塊だ。その立ち居振る舞いからは想像もできない程、基礎体力から装備の選択、手入れに至るまで。基礎、基礎、基礎。安定を究極まで突き詰めた様な冒険者だった。
対して、盾の女性冒険者も私のそれより遥かに重い鎧を纏って同程度に動けるのだから、その体力や足腰の鍛え方が違う。盾の技術も、彼女だけが疲れているという様な状況でなければ挟み撃ちにしても攻撃が通らない程だ。
戦闘能力だけ見れば、私が明らかに劣っていた。
それでも、私をリーダーにと慕ってくれる2人の前で弱気は見せられない。
虚勢ではなく、私は意地を——志を貫いた。
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以前地の文で差を作ろうとしたのですが、なんというか、「コレジャナイ」感じがしてしまって。似た様な文体になってしまっている事、表現の拙さをお詫びします。
もう少しで1話に合流できますね、続々やっていきましょう。
2018/10/09 タイトル修正
2018/10/12 誤字修正
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