ex4−2 無名指揮者の静観

 救われたのは、私の方だ。


 互いの研究が一段落して、阿吽あうんの呼吸とは言わないまでも、視線と表情の動きであったり、周囲の状況から次の行動やおおよその考えを予想できるくらいには3人組ミニマム・パーティという編成に慣れた頃合い。

 私達は、軽戦士の少女と出会った。

 私達がこの3人組を固定して活動しているのを見て取り、「予備戦力は如何いかが?」と言葉少なに彼女の方から接触して来たのが切っ掛けだ。


 3人組は防御、攻撃、支援の役割分担を実行できる最小人数。だからこそ、最小ミニマムのパーティと呼ばれる編成だ。そんな限界ぎりぎりの状況はほんの少し力み過ぎただけで破綻しかねない危うさを孕んでいる。

 誰か1人が欠ければ、それで全ての歯車が狂うのだから。ある意味、分担がはっきりしているからこそ、逆に柔軟な対応を常に求められる2人1組ペアより緊急事態イレギュラーに弱い。

 それを補うのが4人目の存在だ。『パーティは4人から』なんて習慣がある所以でもある。

 それはいつか探さなければならないと思っていた存在であり、冒険者の間に広まりつつある私達の悪評から、時期が悪いと見送っていた存在でもあった。まさか相手の方からやって来てくれるとは。


 驚きと喜びに心動かされながら、しかし無条件で受け入れる訳にも行かない。……少し頭の痛い話だが、開けっ広げすぎる打撃戦士の女性の様な振る舞いの人物がもう1人増えるとかなり厄介だし、男と見れば噛み付くという反骨精神から冒険者になった可能性も0ではないのだから。

 さて、なんと応えた所か。


 そんな思考を巡らせている間に、盾使いが1歩、前に進み出る。

「その心は、嬉しく思う。しかし、だからこそ聞かせて頂きたい。何故、我々のパーティを選んだ? 自分達で言うのも何だが、私達の風評はあまり褒められて物ではない。耳にした事はないか? 『反社会的——』」

「——貴方達は、立ち向かう勇気があった。泣き寝入りしなかった」

 汚れ役を買って出る彼女の言葉を遮る様に、軽戦士の少女は言う。

 外見通りの声量に対して、含まれた強い意志が印象的な声だった。

 折れない心は好ましくもあり、強すぎる感情はトラブルの遠因として警戒の対象でもあり。まだ、軽々しく迎え入れられる段ではない。

「そっかぁ。お名前は? あと得意な事とかも教えてくれるかなっ?」

 そんな私の警戒を飛び越えるのは、やはり快活無垢な女打撃戦士。たぶん、あれはわざとだ。天真爛漫なふりをして、緩衝材になってくれる……ある意味実に戦士らしい振る舞い。

 私は、彼女達2人に、2人と出会えた幸運に、改めて感謝した。


 少女は、回避が得意だと言う。加えて、刃物系取り扱い全般も。回避については刃物の取扱についての発言よりやや語調が強かった様に聞こえたが、才能を持っているのだろうか。

「それは、才能持ちという意味か?」

「……回避は」

 特に戦闘に関する才能の有無は指揮に関わる問題だ。有耶無耶に出来ないと目を合わせて問う私に、幾許かの逡巡を見せた彼女は肯定した。

 ただの初対面ではなく、行き摺りの臨時パーティを組むというのでもなく、これから固定パーティを組もうというのだから多少失礼をしてでも確認しておく必要がある。

 その為の提案は、女打撃戦士から遠慮なく飛び出した。

「じゃ、ちょっと組み手しよっか」

 彼女が積極的というか相手のペースを考えていないように振る舞うのは今に始まった事ではないが、こうも実戦主義になってしまったのは、ここ最近の訓練の所為かも知れない。つまり、私や盾使いにも少なく無い責任があるといえるだろう。


 ◇◆◇


 結局、言葉と拳の話し合いの結果、やがて固定を組む事を念頭に置いて臨時組み込みという事になった。軽戦士の少女自身いきなり諸手を広げて受け入れられるとは思っていなかったらしく、特にトラブルも無く話は纏まったといっていいのだろう。

 パーティなんて言うのはほんの小規模な組織だけど、互いに命を預ける信頼関係とそれに基づく連携の有無が大きく物を言う特別な環境でもある。彼女と私の1対1なら話は簡単だが、私の決断に左右されるのはもう私だけの未来ではなかった。

 実戦環境での動きや平素の振る舞いも確認してみない事には、本当の意味で受け入れるのは難しい。


 馴れ合いで済ませられる問題ではないと、汚れ役を分散してくれる2人には心の中で謝罪しつつ、私は1歩下がった所で彼女を、全体を、観察する。それが、多分このパーティで求められる私の役割だから。



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2018/10/11 現時点で出すつもりのないキャラ名を表記してしまっていたので『彼女』に修正

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