ex5−2 田舎娘の配慮

 次の日、ウチが町に帰ったら、皆笑顔で迎えようくれた。

 ギルドん人を護るんも大切な仕事やけん、黒の人おるっちゃけど、最後まで気は抜かんかったよ。

 皆、笑顔たい。無理してる顔っちゃけど、笑顔たい。

 そしたら、大丈夫。笑える元気あっけん、よか。ほんにつらか時は、嘘でも笑えんけん。


「先ずは、装備を再編しようか」

 貯金ある言う3人は、魔法鍛冶げな言う値段比性能重視でちょー露出過多ちゃけど、背に腹は代えられんけんね。……見とるんも恥ずかしか。ほんにそれでよかと?

 ウチよりこまか子と耳隠しとる獣っ娘は、お金ないんね。

 斥候に専念しゅれば問題なかかも知れんけんど、難しいちゃね?

 前衛なんてえらい無理があるだろうし。

「うむ、皆の不安も判る。全身支給品で森に入るなんて、特に前衛にとっては無謀も良い所だろう。そこで、2手に分かれよう金策チームと、情報収集チームだ。私は油断していた。情勢を見誤っていた。巻き込んでしまった皆には、大変申し訳なく思う。だからこそ、反省し、今は何より情報が欲しい」

 頭を下げる彼女を、皆口々に慰め、励まし、支えよる。ウチは——。

「負けないよ」

 出来るだけ短く、宣誓。

 伝わったとうか? まだ誰もへこたれやないけん、ウチ等は戦える。失敗を支え合うのが、仲間やけんね?

 手ば打ち合わせて、再戦の宣言。

 ウチが伸ばした握り拳に、同じのが5つ、重なったんが、ちょーこそばいわ。


 ◇◆◇


 ウチは、装備が頼りない2人の護衛たい。

 ギルドの資料が中心ちゃけど、か弱か娘子2人が不用意に出入りする場所でもなか。

 冒険者いうていろんな人おるけん、油断しきらん。

 目利かせ耳利かせ、ちゃけど、武器ば抜かん。ウチから問題起こしようなら、皆に迷惑かけるけん。護衛は後手。後の先が基本たい。


 正直、ウチは字とんと読めんし、資料読む手伝いは運んだりなおしたりしかできないけど。耳澄ましちょるだけでも、言葉の勉強は出来るけん。ウチに暇なんかなか。

 資料室からん帰り道、耳に届いた女の人の声は、ウチからしたらまだまだ早か物やけど、ぶち丁寧で聞き取りやしゅかった。

「どうしたんです?」

 思わず立ち止まって見回してしまったウチに、獣っ娘が心配してくれる。護衛がいきなり足を止めれば、気になるんは当然よね。

「ごめん」

 謝って、ウチは早足で追いかける。


 ◇◆◇


「文字情報だけで判断するのは……難しい」

 資料浅りを始めて数日。斥候担当の子が、疲れを滲ませて呟いとう。

 食事を進める手も止まって、意気消沈の様子たい。

 声かけるんも難しか。

 情報の集め方なんて他には思いつきもせんし、どげんしよか思うて迷っとうと。

「ちょっといいかしら?」

 そう、聞き覚えのある声を掛けられた。


 声ば掛けて来たんは、魔法使いさんやった。

 地味な、けど作りんしっかりしたそんローブは安物なんかじゃなかっち一目で分かる。ウチの村じゃ村長もあげなん持てん。

 綺麗な人やし、貴族さんかいな?

 最初に反応したのは盾の人。ちゃけど、彼女が立ち上がる前にリーダーが。

「あぁ、多少なら構わないが」

 ウチ等に向けて喋るんより、ちょー堅い声。多分、気付かれん程度ちゃけど、緊張しとっと?

「ありがと。女性だけのパーティで、安全・安定重視。でも、男性冒険者断固拒否と言う訳ではなく、単に指針の違いから別離している——って、貴方達で間違いないかしら?」

 加入したてんウチにゃ判らんけん、リーダーの顔色を伺ってみる。

「あぁ、そうだが」ゆうて応えるリーダーは、余り驚いてなさそう。特に秘密ゆうわけでもなさげやね。

「そう。……良ければ、私も参加させて欲しいのだけれど」

 隣ん斥候の子も、そん言葉にぐいっと顔上げるんが判った。ウチも同じで、思わず彼女の顔と格好を見回して、それが失礼や思うても、止められん。

「……それは護衛の依頼と言う訳では、ないんだな?」

 言い間違いっちは考え辛いちゃけど、そんでも確認せずにはいられん。そげな様子のリーダー。それは、ウチも、多分他の皆も感じとる疑問。

 皆で、魔法使いさんの言葉ば待った。

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