ex8−2 女騎士の忠義

 彼女と行動を共にする様になったのは、その次の臨時パーティでも顔を会わせたのが大きい。


「貴女は何故、そうパーティを転々としているのだ?」

 無目的にふらふらとパーティを変えるのは、その労力に見合った目的がなければやっていられないだろう。私の場合は、護るべき人を探すためだ。

 そんな不躾な問いに、彼女は小首を傾げて。

「いつ裏切られるか解らない——って怖いでしょ?」

 無垢な様子で、底知れない闇を覗かせる台詞を口にした。

 誰かからの受け売りかも知れないし、直感的な不安が故かも知れないが、その言葉は彼女の武器選択や戦闘時の振る舞いを加味すると案外違和感がない。大胆に見えて、彼女は慎重な質らしい。

 或は、大胆無垢に見える振る舞いも、相手を見定める為に身につけた演技なのかも知れないが。


 彼女は、護るべき仲間ではあるし、行動を供にして苦を感じる相手でもない。天真爛漫に見えて、相手が嫌がるような事はしない、身の引き方を知っていた。

 強い人だ。

 戦闘能力でも、立回りの器用さでも、それを支えるしたたかさも。


 ◇◆◇


 少し後に出会った女性は、そんな棍棒少女に比べると隙の多い人だった。

 1人で全員相手にして叩きのめせる程の実力差がある訳でもないのに、提案を躊躇わない。失策の指摘を戸惑わない。高すぎるリスク負担を蹴り、命令に反して仲間を護る。


「ミスったそいつが悪いんだ。見捨てれば撤退する必要なんてなかった!」

「仲間を捨て置いて何がパーティだ。そもそもからして貴様の指揮に問題が有ったと何故認めない!」


 死にかけた囮役を彼女が庇って隊列が崩壊し、その臨時パーティは撤退を余儀なくされた。

 リーダーは采配ミスを認めず、囮にした男性が死に瀕した事にも責任を持たず、男女3:3のパーティは険悪な空気のまま解散となった。庇われた男性冒険者さえ、彼女の敵に回っての3:1の対立に、しかし彼女は結局折れる事無く意地を貫き通して。


「あんな我が儘なじゃじゃ馬は放っておけ」

 と言うリーダーを蹴り飛ばして、私は彼女を追った。


 ◇◆◇


 正直、私は弁が立つ方ではない。

 彼女の命令無視を擁護するだけの意見を持っていない。

 だが、どちらを護るか、と選択を迫られるなら、迷う事もなかった。


 ◇◆◇


「待ってくれ」

 余り大きく無い背中に、声を掛ける。

「これからも、貴方の盾を努めさせて欲しい」

「——これはこれは、熱烈な告白だね。でも私は、どちらかと言うと男の子が好きなんだが」

 振り向きながら、彼女は冗談を言う。

 後から追いかけて来た棍棒少女が、それを笑って否定する。

「違うよー。ちがうちがう。そうじゃなくって、これからもパーティ組みましょうってお誘いなの」

 冗談なのか本気なのか解らない言葉に、私は肩の力を抜いた。

 2人の間の手がなければ、私は真っ直ぐに言葉を伝える事さえままならない。

 そんな不器用さが今更どうにか出来るとも思わないが、先の彼女の応えは否という意図なのだろうか。確かめるのは怖く、しかし確かめない訳にも行かず。どんな言葉を選ぼうか迷っていると、彼女は肩を竦めて首を振る。

「ああ、いや。……私で良いのか?」

「もちろんだ。——仲間を大切に出来ない様な者の下で、盾は構えられない」

 私に否が有るはずもなかった。


 ◇◆◇


 このリーダーは、剛胆な様でいて慎重だった。

 他の冒険者なら、見かけ倒しの小心者と笑うかも知れない。

 1つ1つ不安材料を潰し、確認に確認を重ねて最善を模索する。私や棍棒少女の性格とその在り方の相性は案外悪く無く、訓練も冒険者としての活動も、順調に進んだ。

 冒険者という立場に身を置いて初めての事だ。

 他のパーティとの合同編成では問題も少なく無いが、互いに支え合えるというのは心強い様だ。どれだけ割り切っていたつもりでも、自分の心的負担が減った事くらいは自覚するくらいの自己管理は出来なければ、人を護る役目は勤まらない。


 端から地味と言われようと臆病風に吹かれていると笑われようと、私達はこれで良い。

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