★200記念、8女騎士の裏話1
ex8−1 女騎士の身上
人は人を護る時にこそその真価を発揮する。
その家訓を、忘れた事は一度としてない。
いつか誰かを護るため、と盾や鎧の扱いを学んでいる時も、1人で旅をしていた時も、あらゆる武装を取り払って
「貴女が護るに相応しい人を探しに行きなさい」
私が旅に出たのは、そんな母の言葉が切っ掛けだった。
幼少期を修行に費やす私達は貴族社会で生きるには余りに不器用過ぎて、縁談お申し込みは全てお断りいているとか。兄上達は護衛任務中に恋仲になった相手と結ばれた、幸運な例らしい。
「私達は、権力の盾ではなく人の盾。護るべき相手を自分で見つけ出すまでは、名を伏せて旅をなさい」
これまでもよく言い聞かされて来た事なので、意外感も疎外感も無く、ただ使命の様なものとして私はその言葉を受け入れた。
期待はしていなかった。
いや、期待はしていたが、理解もしていた、というのが適当か。
『女』を軽視する人は、どこにでもいる。冒険者にも、衛士にも、役人にも、商人にも。
どこに行っても、まずは男。責任者、権利者、代表者、代理人……私が直接護衛依頼を受けようとして、どれだけ「男はいないのか」と口にされた事か。
女性のみで編成された冒険者パーティも、結局は同じだ。なんだかんだと言いながらも、最終的には信用出来る男、頼れる男を捜している。「自分の足で立とう」という意思は弱く、「見つけるまで凌ごう」くらいの身の振り様。それでいながら、対抗心からか不信感からか、男から距離を置こうとしているのだから呆れるしかない。
そんなある日、彼女との出会いは中々衝撃的だった。
「じゃあ、結局貴女達も男の人に護ってもらいたいんだねぇ」
女性5人編成のパーティに見切りをつけ、脱退しようと思っていた矢先。
とても言い難い事を、彼女は暢気な口調で真正面からリーダーに突き付けた。
「そんなこと、あるはずがないでしょう!?」
「でも、いっつも男冒険者の寸評ばっかりしてるでしょ? それって、気になって仕方がないってことじゃない?」
感情的な反発をたった一言で飲み込んで、「イイヒトを探したいなら、もうちょっと素直になった方が良いよ?」なんて言いながら、彼女はパーティを脱退した。時期が重なったのは、ただの偶然だ。
彼女の考えが気になったので、私はその背中を追いかけた。
喧騒に紛れて、別のテーブルへと彼女を誘う。
「すまない、先の言葉が気になってな」
「さっき?」
「あぁ、君は男性冒険者をどう思っているんだ?」
悪く思っていないなら、何故女性のみのパーティに所属していたのか。
良く思っていないなら、何故庇う様な台詞を口にして脱退したのか。
そんな私の問いに、彼女は少し考えて。
「うーん、意地っ張りな弟みたいな感じかなぁ?」
随分と独特な感想を口にした。
どう見ても少女の域を出ない容姿の彼女に、弟呼ばわりされる腕自慢の荒くれ者達。そんな構図が、思わず笑ってしまいそうになる。
「……その心は?」
「だって、自分が偉いんだー、強いんだーって威張ってさ。勝てない敵に挑んで叩きのめされて、それでも強がっちゃって。かわいいじゃない?」
そんな視点で男性冒険者を見た事がなかった私は、驚きと納得の間で揺れた。感情の整理が追いつかない。
「まぁ、でも。正直リーダー任せるには頼りないし、巻き込まれて死にたく無いし、自分から近付こうとは思わないかな?」
質問の意図はしっかりと返されて、私はとりあえず、お礼を言った。
「貴女は?」
そっくり、真っ直ぐに彼女は返してくる。
「……護るに値しない、といったところだな。パーティとして、役割としてなら護るが、それ以上にはなり得ない男ばかりだ」
「へぇ、……女の子だね!」
要するに私は、母の言葉と家訓に従って、生涯を賭して身を尽くす相手を捜しているのだ。彼女の言葉は、その事情を真っ直ぐに射抜く、言い逃れの仕様もない程確信に満ちた指摘だった。
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2018/10/22 誤字修正
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