ex10−3 魔法少女の交渉

 活動履歴から見れば、彼が足を運びそうな場所はある程度絞れる。

 売り込みの為なのか、同じ人物からの指名依頼を何度も受けていたり似たような仕事を連続して受けていたり。


 だから私は、1つの魔法薬店ポーションショップに足を運んだ。

「おや。女性のお客さんとは珍しいね。いらっしゃい」

 そう歓迎してくれたのは、花の妖精だった。

 凛々しく、可憐で、誇り高く、しかし儚い。ひと目でそんな印象を与えて来る彼女は、看板娘さんだろうか。きっと、自分だけの物にしたがる男は多いだろう。同性の私でも、一瞬息が止まったのだから。

「……ちょっとお話を伺いたいのだけど」

「あっはっは。お嬢さん、ここは情報屋じゃないよ?」

 自分を奮い立たせる為に敢えて客ではないと口にすると、彼女は嫌な顔をするどころか笑い飛ばしてしまう。

「……精神疲労回復魔法薬はあるかしら?」

「お手頃価格のランク1、即効性が売りのランク2、逆に即効性はないけどじわじわ長く効果を得られるランク3……色々揃えてるよ。最近は質の良い薬草が手に入るから、自慢の仕上がりさ」

 すっかり彼女のペースだ。しかし、その発言には気になる言葉が含まれていた。

「質の良い薬草? 特に品質のいい薬草が手に入りやすくなった、なんて話は聞かないけど?」

「おっと。ダメだよ? 商売の種は明かせないさ」

「ここの店主から良く指名依頼を受けている冒険者が関係しているのかしら?」

「薬草の採取依頼なんて頻繁に出しているからね。誰のことを言ってるのやら」

 私の探りを、彼女はフワリと躱してみせる。

「ランク1の男の子よ。駆け出しをわざわざ指名でランク1の冒険者を選ぶなんて、特別な関係がありそうだけど?」

「薬草の採取なんて利率の低い仕事、特殊な物以外はなかなか高ランクの冒険者は受けようとはしないからね」

「……別に貴方の商売の邪魔をするつもりはないわ。私は彼——冒険者アデルに話があるって言うだけで」

 警戒されていては埒が明かないので、私は彼の名前を出した。


 具体的に彼女が何かを言ったとか、強い感情を見せたとか、そんな訳でもないのに空気が変わった。少なくとも、それ以上の言葉をつい飲んでしまう程度には。


「そのアデル君という冒険者に用があるのに、何故私の店に来たのかな?」

 ほんの少し、彼女は視線を上げただけ。顔ではなく、目を合わせただけ。ただそれだけで、彼女は私を縛ってみせた。

「冒険者の事情には詳しく無いけど、冒険者同士のやり取りは仲介を要するならギルドを通すが筋だろう。装備を見るに、君はとてもランク1や2ではないようだね? そんな君が、ランク1の駆け出し君に、ギルドを通さず何の用があるというんだい?」

 彼女は、ただの看板娘なんかじゃない。ただの売り子や店番なんかじゃない。そう、肌で理解させられた。

 これは、彼女なりの警告らしい。


 ただ、やられっぱなしで黙っている程、私も大人しい性格ではなかった。

「……随分と入れ込んでるんですね?」

「見所のある駆け出し君を応援するのは、この業界で生きていくには大切な事なのさ」

「少なくとも、魔法使いよりは彼に見所があると?」

「そこは、付き合いの長さや信頼関係だね。有力者が信用出来るとは限らないだろう?」

「彼が優秀な斥候なのは確かね。……でも、単独活動には限界が有るわ」

「事を急く必要はないんじゃないかな? 急造の仲間より、安心して背中を任せられる相手を探すべきだ。時間を掛けてでもね」


 彼女の言っている事は、商人らしく合理的だ。今焦って失敗するより、1歩ずつ着実に歩を進めた方が確実。僅かな幸運に期待して人生を掛け金にするなんて、同じ冒険者の視点から見ても博打が過ぎると思う。


「同感ね。だから私は、彼を誘いたいの」

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