本編16万PV記念、11無名指揮者の裏話2
ex11−1 無名指揮者の背反
皆の支えと努力があって、女魔法使いの助力もあって、パーティの立て直しは順調だった。
攻略の糸口となる情報も見つかり、戦力も拡充されて。加えて彼女の協力があれば
しかし、これで調子に乗っては、元の木阿弥だ。
だからこそ、
その判断を私は皆に話、同意を得て、準備をした。
ちょうどいいので、件の『優秀な斥候』の人柄や実力も見てみようという話も出る。
「殆ど2つ返事だったわ。出発は明日の昼で良いって」
2、3日なら待てると考えた上で声を掛けると、彼はそう応えたらしい。
余程の実力者か、ただの自信家か。
彼女が『優秀』と評価するのだ。前者である可能性は、低く無い。それでも、男性冒険者に対するイメージから、後者である可能性を捨てきれない。
性別で——本人の実力や思想に関係のない所で評価を下すのは、私が最も嫌う事だというのに。誰もいない所で、自己嫌悪にため息を吐いた。
◇◆◇
待ち合わせ場所にやって来た彼は、地味な容姿の少年だった。装備の貧相さもあって、とても優秀という言葉の印象からはかけ離れている。
偶発的な顔見知りなのか、調査に回っていたメンバーから多少の反応があった。
目をやってみれば、警戒と感心、納得といった感情が見て取れる。
これは後々話を聞いてみる必要がありそうだ。
ともあれ、彼自身は当たり障りの無い程度の、探りを入れるような身の振り様。警戒されているのが明らかで、まるっきり性別を入れ替えたような状況に苦笑してしまう。
もっと楽に振る舞ってくれた方が、お互いに気が楽だろうに。そう考え、それはきっと逆の視点でも同様なのだろうと気が付いた。
しかし、一般的には女性の立場こそが低いのだ。女性の側に気楽に振る舞えと言うのは、肉食獣の前に裸で横たわれと言う様なものだろう。性別が逆のこの状況ならば、彼の振る舞い次第で全てのバランスが変わる可能性も無くは無い。
彼が慎重に振る舞っている理由を少し考えてみれば、自衛の意味があるのと同時にこちらへの配慮でもある事は明白だった。
最初に抱いた、地味という印象を取り下げる。周囲の状況に気を配りながら情勢を探るのは、中々好感触だ。求められる能力は変わるが、斥候本来の役割にも通じる所があるだろう。
私の中での彼の評価は、優秀な斥候であるという期待の側に傾いた。
◇◆◇
不遜で、的確。
メンバー達から聞き取ったそんな評価は、しかし森の探索1日目で吹き飛ばされた。
自分から釣り役に進み出る事1つとっても、中々できる事ではないはずだ。しかも、休憩やペース配分も考えてくれているらしく、大変ではあったが無理の無い戦闘ばかり。
放っておけばモンスターを狩り尽くしてしまいそうな誘導能力と、パーティの戦力を最大限活用させるような頻度。もし彼がリーダーなら、どこまでも冷徹に効率を求めそうな容赦のなさだった。
午前は拠点の設営に時間を要したので、たった半日の探索だ。それなのに、私達の戦力は既に見切られているのだろう。そうでなければ、あの『釣り』には説明がつかない。
短時間で私達の実力を見切り、最適な頻度で最適なモンスターを釣ってくる。これを実現した彼を優秀と評価出来ない程、偏った人間はこのパーティには居ない。
実力に疑いが無いのであれば、後は人間的な問題。信頼関係を如何に構築するかという話になる。
少なくとも彼は、私達が女だからという理由で偉ぶる精神とは無縁な質らしく、その点について私が心配する必要が無さそうだった。問題なのは、幾人かが既に苦手意識を持っているようなので、これをどのようにして解消するかということ。
これが中々に難題で、一応理性的な判断のもと考えついた手段としては、私に関心を向けさせる事で緩衝材になる事ができれば良いのだが。生憎、私には男性経験がない。……1歩間違えた先はどうしても怖かった。
これまでの経験から考えれば、今後女性を軽視しない男性と知り合える可能性はあまり高く無く、もし『事故』が起きてしまったならばそのまま行く所まで突き進むという選択も悪くは無いはずなのだが。……理性と感情の乖離が、私の身を竦ませる。
それは、リーダーとしての責務なのか。私の個人的な願望なのか。考えているうちに判らなくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます