ex9−2 棍棒少女の接近
「女性の手料理を食べられるなんて光栄だな」
なんて彼の言葉に乗せられた訳ではなくて、周囲警戒は斥候の彼に任せるべきだと判断した結果、女性陣が料理を担当する事になった。
料理は女の仕事、と命令されるよりは、張り切り甲斐が有ったのは間違いないけど。
適正による役割分担に、不満はない。
女性から指示される事に全く嫌悪感を示さない彼の態度は、むしろ好ましい。
取っ付き難いという欠点が、他のメンバーから距離を置かれている原因なのだと思う。
もう1人の斥候ちゃんや恥ずかしがりやの子からは苦手意識を持たれているみたいだけど、異性に対する感想が全員円満に、なんて難しいだろう。なら、その橋渡しをするのは好感を持ってる私の役目だ。
「という訳で、今夜決行しようと思いまーす」
周囲を警戒する彼から離れて、内緒話をするには絶好の機会。
彼が捕って来た小動物を捌きながら、私は皆に意思を伝える。
「なにが、「という訳」なのよ」
「早速?」
「そんなに気に入ったのか?」
返ってきた反応はバラバラで、その口調は全体的に消極的だ。
「んー、子供扱いされてるみたいで癪なんだよねぇ」
本当はそんなのはオマケもオマケの理由だけど、「皆が感じてる不信感を少しでも払拭したいから」なんて言えるはずもないから、そう言う事にしておいた。
「……まぁ、いつかは偶発的に見られる機会もあるだろう。それなら最初は覚悟を決めて見せておいた方が、精神的被害も少ないか」
最初に賛成を示してくれたのは、付き合いの長い盾使い。
「私は今日、ってだけで一緒にしてって言うつもりはないんだけど?」
「貴女だけ、というのは不自然だろう。それに、1人でするより複数人で当たった方が精神的負担は少ない」
皆を巻き込むつもりなんてなかったのだけど、結果としてギルド職員さんを除く全員が参加する事になった。
その職員さんに、寝る準備をする間の短時間の見張りをお願いして、彼をテントに誘い込む計画が短時間で立案される。これも、連携の訓練を積んで来たおかげ、なのかな。
食事の時間、緊張からか皆は全体的に口数が少ない。
けど、付き合いの浅い彼には解るはずも無く、見張りのローテーションだったり今日の成果だったり、冒険者らしい雑談に花を咲かせていた。
皆が大人しいからか、それとも実力の証明を挟んで少し積極的になったのか、彼の発言の機会はこれまでより多く、距離感もやや詰められている様子だ。
それ自体は歓迎出来る事なのに、堅くなっている皆とは噛み合ない。ちょっと失敗したかななんて思うけど、今更さっきの話はなしなんて言えない。
だから、私は彼の隣に移動して、積極的に言葉を交えて誤摩化した。
◇◆◇
ただ着替えるのと、異性に肌を晒すという覚悟を持って服を脱ぐのは、似ているようで全く違う。冒険者になって幾度も経験する中で多少は慣れたつもりだったけど、『諦め』と『期待』では大違いなのか、今日はやけに緊張した。
後は布1枚を纏って、彼が入って来るのを待つだけ。
それは斥候なしに森で罠を張っていた時の緊張にも似ていて、息を殺す所まで含めて、駆け出しの頃に戻った気分だ。他の皆も似たり寄ったりの格好で、緊張と羞恥が表情に出ている。
体躯に自信があるのか、度胸が据わっているのか、誰より堂々としているのはリーダーで、「私は盾、私は壁、私は守護者……」なんて自己催眠を掛ける程動揺している相棒はどこか可愛かった。
そんな2人を見ていると不思議と落ち着けて、深呼吸1つで覚悟が決まる。私が言い出した事で、私は彼を信じるんだ、と。
果たしてテントにやって来た彼は、何を思ったのか。
表情から読み取れるのは、驚きと困惑と羞恥。情欲の色が見られないのが、初心な印象だ。
私の事を子供扱いしたくせに……なんて煽るわけにはいかないし、初心なくらいの方が周りの皆は安心出来るかも知れないけど。感じたのは安心ばかりではなかったのは間違いない。
「何してるの?」
ちょっと強い語調で、非難してみる。
びくりと反応する様は、
あえて、肌を隠すなんてしない。ちょっとくらいは情欲を感じさせるくらいでないと、癪だった。
けど、彼が見せたのは自己嫌悪。
思い通りに事が運ぶとは思わないけれど、それでもやっぱり、つまらない。
「……早く寝る準備をしたら?」
いつまでも睨めっこしていても仕方ないので、不本意では有るけど助け舟を。
「……まぁ、見てたいなら見てれば良いけど」
もしそうするなら、明日からは子供扱いなんて許さない。
人となりを知るという意味では、それなりに成功だったと思う。少なくとも、何かの事情で2人っきりになっても間違いを犯すような人ではなさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます