本編12万PV記念、9棍棒少女の裏話1
ex9−1 棍棒少女の信頼
いつ折れるか解らない剣は、怖い。
いつ裏切るか解らない人は、怖い。
幾ら見栄えが良くても。
幾ら上手く付き合えても。
その時々でどれほど頼りになっても。
不器用なくらい真っ直ぐな人の方が、私は安心出来た。
例えばそれは、騎士以外の生き方を知らない女性だったり。
例えばそれは、不条理を飲み込めない世渡り下手のリーダーだったり。
田舎から出て来て訛りを恥ずかしがっちゃう初心な子だったり、人に認めてもらう為には自分自身を騙してしまう子だったり、何の為か
最近では、素直になれない恩を返す為に大きく回り道をしちゃってる人だったり。
この先冒険者を続けてもう2度と巡り会えないかも知れない、安心出来る場所。
そこに「優秀な斥候」と紹介されてやって来た男の子は、ハリネズミみたいな人だった。
男所帯のパーティに間違えて入ってしまった女性冒険者みたいに。
愛想笑いが上手くて、話を合わせて相槌を打つのも淀みない。
それでいて、彼は警戒心を隠さない。
臨時のパーティーと伝えているらしいから、馴れ合い過ぎない様にしている、というのはわかる。
けど、リーダーや魔法使いが近付いても自分から距離を置こうとはしないし、肩が触れ合うような距離になっても手を伸ばしもしなければ拒絶もしない。余りに態度が変わらないので、どのくらいの距離で付き合えば良いのか、私達の方でも解らなかった。
ただ、合流1日目の夜、彼の
装備を1つ1つ、時間を掛けて点検していたからだ。
使っていないナイフまでわざわざ切れ味を確認して研ぎ直す、徹底した慎重さ。
そう言った所は、私も共感出来た。
もし彼が、伝え聞いた通りの価値観で、対外交渉の代表をしてくれるなら。都合の良すぎる未来を想像して、誰も見ていない所で溜め息を吐いた。
彼は彼で、リーダーはリーダーで。私は庇護を求めるだけなんて、厚顔無恥にも程がある。
せめて出来る事として、彼がどんな人間か見定める為の試金石くらいには役に立とう。
それで、あわよくば彼がパーティに残ってくれる様、良い印象を持ってくれれば言う事はない。結果がどちらに転んでも、ただ庇護下に甘んじているよりはずっと良い。
◇◆◇
優秀な斥候というのは間違いがない。リーダー曰く「容赦がない」彼は、私達に無理のない範囲で連続戦闘を強いた。
この無理のない範囲というのが本当に絶妙で、彼を最大限信頼して奇襲の可能性を切り捨てていたなら、もっと楽に対処出来ただろう。私達の力量をしっかり見抜いた上で、信頼具合まで考慮して、おそらく最大の効率を実現してみせたのだ。
たった1日……いや、半日の活動で、彼の力量は十分すぎる程に理解させられた。
丸1日活動した時の収入に等しい程の稼ぎだ。
そういう立回りは、多分、彼なりの必要性に駆られての物なのだろう。
冒険者は、実力社会。「戦闘力はない」と言い切る彼が、その有用性を知らしめる為の方法として、こういった立回りを模索したのだろうと想像はできる。
想像はできるが、体験した感想は「有用性は認めるから、もう少し手加減をして欲しい」というところ。
しかし同時に、彼は私達をよく見て観察し、無理をさせない様に配慮しながらモンスターを引き寄せる危険な仕事を請け負ってくれたという事。
「信頼してくれるのは嬉しいけど、もう少しお手柔らかにして欲しいかな?」
抱きつきながら言ってみる。
彼は少し驚いた顔で固まって、直ぐに肩を竦めた。
「1日あのペースでは持たないからな、明日からはもうちょっと調節するよ」
彼はそう言いながら、ポフポフと私の頭を撫でてくる。
まるっきり子供扱いだ。それがちょっと、
「そろそろ戻ろうか。今日の夕飯は豪勢にいけそうだ」
私が何かを言うより先に、リーダーの言葉でやり取りは中断される。
中型——人間大のモンスターだけで10体、その他の獲物も含めるととても6人で持ち帰れる量ではないので、解体や取捨選択で大忙しだ。
「これだけ多種の血が混ざってる所に来るモンスターは居ないと思うが……」
念のため、彼は警戒に当たるらしい。
それを引き止める人は、1人も居ない。
油断をして全滅するなんて、よく聞く話だ。
最低1人は周囲警戒に当たっておくべきで、それに斥候としての能力を証明した彼が担当するならこれ以上の適正はないのだから。
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