ex4−3 無名指揮者の失態

 順調だった。

 順風満帆だったといっても良い。

 軽戦士の少女を仲間に加え、やや間を置いて、一見では余り冒険者には向かない質に見受けられる大人しそうな印象の少女と、何故か獣人である事を隠そうとする——隠しているつもりの少女が冒険仲間らしき者達に難癖をつけられている所を拉致同然に勧誘し。

 6人のという充実した戦力を確保した所で軽戦士の少女が斥候少女に転向したおかげで「奇襲に弱い」「得られる情報が少なく行動決定に時間がかかる」という欠点をかなり克服し。

 1日1日がとても充実していた。

 なんて事無い冒険が発見の連続で、今まで出来なかった事が出来る様になって。気が付けば、それぞれレベルが上がったりランクも全体的に1回り上がったり。

 なんて事無い毎日が、冒険が、輝いていた。


 6人もの戦力があれば、大体の事は出来る。

 もちろん身の丈に合わない強敵に挑む事は愚行だが、街道の周りに出現する程度のモンスターであれば、対処出来るだろう。

 事ある毎にいがみ合う事になるであろう男性冒険者をパーティに入れるより、私達だけで行動した方が遥かに効率がいい。そう結論を出した私達は、初めて『遠出』を決行した。


 それが間違いだったのだろうか。


 町最寄りの宿場村からおよそ半日。そこには先客の拠点があったが、私達はギルドの推奨するやり方に従って、その付近に拠点を設けた。

 正直に言えばいい気分のするものではないが、どけとも言えないし村からこれ以上距離を取って拠点を張るには、実力に不安が残る。何せ、このパーティ初の『遠出』なのだから。不測の事態というのは、何も直接戦闘に限らない。

 冒険者をある程度続けていれば着替えを覗かれる事にも慣れてくるし、下手をすれば酒の肴にされる事だってある。そういう時に向けられる視線、表情、言葉や態度から、相手の魂胆を見抜くのも技術のうちだった。非難した所で状況は解決しないし、そういう事を積極的にやって来る様な連中には逆に面白がられるだけなのだ。まともに取り合っていては、埒が明かない。


 その夜、酌をしろなんて迫って来た部外者を叩き出し、離れた所から聞こえる大笑いを風に流して。

 翌朝、順繰りという事で拠点防衛をリーダーである私や斥候の少女以外から無作為に選んで、私達は森に入った。引っ込み思案な質ある彼女を置いていくのは不安がないではないが、いずれやってもらわなければならない事でもある。『遠出』後半の疲労の中で初体験するよりは良いだろう。

 彼女の実力が他のメンバーと比べて今1歩劣る、という部分もないではないが、それは敢えて口にしない。その程度を補うだけの経験がない事は、他の面々にも言える欠点だ。

 いつもいつも十全の備えで冒険に挑める訳ではないのだから、多少補佐しなければならないくらいで文句を言っていては冒険者など勤まらない。もし個人としての戦闘能力が多少劣るという事を非難するならそれは、護衛依頼で戦闘力のない護衛対象に文句を言う馬鹿並みに、物の道理を弁えていないと言える愚行だろう。

 パーティというのは、必ずしも直接の戦闘能力のみを当てにしての関係性ではないのだから。


 斥候の重要さ。補佐役の重要さ。平時からの備えの重要さ。

 そういった、一見では判り難い価値を、私は事ある毎に他のメンバーに説く様にしていた。他のパーティの内部事情は兎も角、私がリーダーを務める固定パーティのメンバーが、自分達を支えてくれている者を軽んじる様な振る舞いは見たく無かった。もちろんそれだけではなく、装備の手入れを怠って不覚をとり、仲間を巻き込んで大痛手を被るなんて間抜けも過ぎる話だ。

 余計なトラブルを減らせる様、私は平時から皆の言動には注意を払っていた。


 しかし、そんな備えも本物の非常事態イレギュラーの前には紙吹雪同然だった。

 判断ミス。失策。

 認識が甘かったなんて、言い訳にもならない。


 私達は、突発的に遭遇した大型モンスター縄張り熊テリトルベアーの雌雄の挟撃を受け、呆気なく全滅した。


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すみません、執筆が追いつきません。

記念サイドストーリーをいっぱい書けるのは非常に嬉しいのですが、まさかこんなに連続して書く事になるとは考えていなかったので、書き溜が足りませんでした。

だからといって、1400文字程度の物を1話だけ投稿して終わるというのも申し訳ないですし……。

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