本編9万PV記念、6獣耳少女の裏話1

ex6−1 獣耳少女の焦燥

 幸せの形なんて、きっと人それぞれ。

 収入の安定しない農民の家に居続けるより、もしかしたら奴隷の方が幸せかも知れない。その主人が、奴隷を乱暴に扱う様な人でなければ、なおさら。

 だけど、必ずもんな人に買われるとも限らないし、寿命を削る様な労働を強制される可能性はないなんて保証もない.。

 畑に盗人が入っても税は安くなったりしないし、モンスターに追われて出て来た動物に荒らされたって誰も助けてくれない。自分達を助けてくれるのは、いつだって自分達で顔を繋いで手を取り合った仲間だけだ。


 だから私は、家を出て冒険者になった。

 余計な食い扶持が減れば、家も少しは楽になるだろうから。

 私達は、普通の人に比べて食費が掛かる。その分1日に肥やせる畑の面積も広いけど、人手が多くても肥やす土地がなければ意味がない。

 近所の農家から嫁に来ないかなんて誘われたけど、私には家の都合以外にも私なりの目的もあったので断った。


 ◇◆◇


 居心地の良いパーティに誘われたのは幸運で、全滅したのは不運で。

 もしそれが神様のお導きなら、私はとんだ道化だろう。

 それでも、諦められない願いがある。でも、そんなのは話せない。皆にそんな事を気にする余裕はないし、落ち込んでいる暇があったら1日も早く再出発しないと間に合わなくなるから。

 どれだけ焦ってても1度に2歩は進めない。まだ、取り返せるはず。


 今の私に出来るのは、1つでも多くの情報を仕入れる事。

 少しでも多くのモンスターへの対策を覚える事。

 少しでも効率よく稼げる様になる事。


 焦るからこそ、1歩ずつ。


 ◇◆◇


 見知らない少年が、同期にパーティに入った無口な子に声を掛けているのを見かけたのは偶然だった。

「——よく見かけるが、いったい何の情報を求めてるんだ? もしかして全ての記録を漁ろうなんて馬鹿な事を考えてるんじゃないだろうな?」

 彼はもしかしたら、忠告のつもりだったのかも知れない。それでも、その無遠慮な言葉は、努力を嘲笑われた気分だった。思わず、声が出る。

「貴方に、何が判るんですか!」

 しかし、彼には私が割り込んでいくのも想定のうちだったのか、まるで慌てた様子がない。

「判らないよ。判らないね、この部屋の資料全部読むのに何年掛かるかなんて」

 そんな非効率、やっていられない、と。

 余りに呆気なく、肩すかしを食らう程淡白な反応に、私は思わず言葉を失っていた。その淡々とした調子が、私を少し冷静にしてくれる。

「重要なのは、現在の状況と、そこから想定できる今後の推移。後、モンスターの分布やそいつ等への対策だろう? 5年10年前の情報を無目的に漁る事に、何の価値があるんだい?」

 もうそれ以上は興味がない、という様に彼は軽く手を振って去っていった。

 ただ嫌味を言いに来たにしては、彼がくれたアドバイスは適切過ぎる。まるで、わざわざ私達にヒントを与えに来てくれた様に。

「……誰?」

 斥候の子がよって来て私達に聞くけれど、私は同期の子に視線をやるしかない。しかし彼女も知らないようで、肩を竦めるだけ。

 結局、私達は訳が分からないまま、しかし筋の通る助言に従って情報の集め方をかえた。無作為に資料を当たるのではなく、近況を調べ、類似した状況やモンスターへの対策をギルド職員に尋ねにいく。

 すると、討伐の記録がある資料や時期を教えて貰えたので情報探しの効率が段違いだ。例えば、私達が全滅させられた縄張り熊テリトルベアーには雄だけ、雌だけ、それぞれ嫌う匂い、引き寄せられる匂いがあるという。『恐らくは、番を探す為の匂いに類似しているのだろう』と、推測が一筆されていた。それを利用して各個撃破するというのは常套手段らしい。

 ただ闇雲に資料を当たっていただけでは、いつたどり着けるかも知れなかった情報。


 どこか悔しいけど、彼には感謝しなければいけないらしい。

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