ex7−2 斥候少女の警戒

 臨時メンバーの魔法使いが件の斥候の話をし始めたのは、パーティが合流してからしばらくしての事。

 彼女がどれだけその人物に入れ込んでいるのか、その口ぶりからだけでも伺える絶賛具合だ。「宿で寝ているときより一緒に探索している時の方が安心できる」なんて、与太よたを通り越して惚気のろけだろう。

 彼女程の実力があれば近場の森で危険なんてそうないだろうから、先入観や第一印象が先走って変な勘違いをしている可能性もある。しかし、仮にそうだとしても、この魔法使いがパーティにいる事を差し引けば、多少足手纏いなくらいなら許容範囲だ。


 穿った見方をしているのは、私の他には騎士っぽい雰囲気を持ってるいつも堅い表情の人くらい。

 結局、反対票は無く、会って見る事になった。

 その能力を測るには、やはり探索が一番だということで、『遠出』を計画する。

 もし私がその話を急に振られたら、地形情報の確認、天然資源の分布の確認、モンスター分布の確認、その対策の確認等の為に2日は欲しいと言うだろう。

 その『彼』はどう応えるのかも評価対象だった。


 ◇◆◇


「買い物したいから、明日の昼で良いって」

 昼から出るとなると、最寄りの村まで急ぎ足での行軍だ。

 しかし、そんな事はどうでも良くなるくらい、その実力評価が疑わしくなる応えだった。

 流石に、他の皆も情報収集の大変さはある程度理解してくれているので、彼の言い分に困惑する顔が多い。多少足手纏いでも構わないと皮算用していても、やはり優秀な人物から紹介される人物が優秀である事は、ついつい期待してしまう物だ。

「……では、探索初日は——」

 リーダーが、拠点防衛と探索本隊の編成を発表する。

 パーティ周辺の警戒が私。彼の失敗を補うのが魔法使い。装備の都合で連携訓練を余り出来ていない2人が拠点防衛。彼女の内心が歓迎的なのか警戒寄りなのかは兎も角、多分、現状では最善を尽くした編成だ。

 その意図は多分皆にも伝わっただろうし、何も問題がなければ休憩も兼ねて順次本隊メンバーを入れ替えていくと言う。否の声は上がらなかった。


 ◇◆◇


 ギルドから馬車と付き合いの深い受付嬢を借りて来て、門で待つ。

 出来るだけ端に寄っていても交通の邪魔には成るので、門兵からの視線が痛い。

 これから出かけるのは『遠出』であって他人の視線は気にするだけ無駄な郊外だ。めかし込む必要がないので、そういった意味での準備は気楽な物だった。

 マントと言う薄布1枚の下が肌の露出が高い物であったり、私なんかはぴったり身体の線が浮き彫りに成るデザインなので、視線を向けられるたびに羞恥心を刺激される事を除けば、何も問題はない。何も。


 待つ事しばらく。果たしてやって来た彼は、以前資料室で言葉を交わした少年だった。

 私は、静かに息を呑む。後輩2人はそれぞれなりに驚きを表現していた。

「待たせた」

「大丈夫よ」

 彼はそんな私達の様子には構わず、手を挙げて挨拶をした。

 それに、招待した形の魔法使いが即座に応じる。

 そのまま合流かと思うと、彼は門兵と何やら話し込んだ。伝手の広い人物らしい。


 衛士というのは国から派遣されるエリートだ。その中でも選りすぐりの実力者が門を警備する任務を担当している。いつも犯罪に目を光らせている険しい表情の彼等と個人的に仲良くなる、というのは中々難しい。

 彼の情報収集能力がその伝手にあるのなら、優秀と呼ばれるのも納得だ。


 ◇◆◇


 謝罪の意を含む彼の第一声は、悪い印象ではない。全員女性という私達の編成を見て、当然の様にリーダー面をして「揃っているようだな」なんて鷹揚に頷く男性冒険者は、珍しく無いのだから。

 全てが魔法使いとの打ち合わせの内だとしても、そう振る舞う際に不快感を表に出さない程度には、女性を立てる事に抵抗を覚えていないのは歓迎できる事だった。


 何はともあれ、いつまでも街道を塞いではいられないので、私達は早々に町を出た。

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