★100記念、3魔法少女の裏話1
ex3−1 魔法少女の事情
私は、兄が嫌いだ。
物心つく前から、何かに付けて嫌がらせをして来た兄を、好きになる筈もない。
庶子である私に、お父様が入れ込んでいる事が気に食わないのか、身近に格下と扱える相手が私しかいなかったからか、原因は判らないが、とにかく、多少背景事情の想像ができる様になったからといって感情が納得してくれる事はない位には、嫌いだ。
魔法学校に行きたかったというのは、半ば、兄から距離を起きたかったからという部分がある。
残り半分は、私自身、魔法が好きだったからだ。
しかし、魔法学校への推薦は、私が魔法学校への入学を希望していると知った兄に取られた。ウチの影響力では同時期に何人も推薦できる程の力はないので、私は入学を諦めざるを得なかった。
とはいえ、兄が家にいる時間が大幅に減ったので、それ自体は構わないのだけれど。
魔法学校を出たわけでもないのに研究職に就くというのは殆ど不可能だし、女騎士に成れる様な訓練を積んでいる訳でもない。他に残された道といえば、魔法兵か結婚か。
どちらも、悪い選択ではないと思う。ただ、気に食わなかった。それだけだ。
どちらの道に進むにせよ、将来的に兄の手駒になる様なものだという事が判っていたから。
私が家を出たのは、ただそれだけが理由だった。
父様が、母様が、嫌いだったのではない。生み育ててくれた事に感謝もしているし、恨みなんてもちろんない。
餞別にくれたマントとローブ、そして特に高級品の魔法の杖にも感謝している。いつ戻って来てもいいと言ってくれる心遣いには、目頭が熱くなった。
けど、もう戻るつもりなんてない。家名はその場において来た。
お父様、お母様。不肖の娘でごめんなさい。
◇◆◇
護衛団に混ざって仕事をすると、お金には困らない。
正規兵——要するに、徴兵しただけの練度の低い一般庶民——くらいの実力相手なら十人纏めて相手にしても薙ぎ倒せる自信はあるし、そんな私に舐めた真似をする輩も居なかったから、意外な程に平穏だったと言えた。
つくづく、魔法を勉強していてよかったと思う。家と両親には、感謝が尽きない。炊事から戦闘まで、魔法は引っ張りだこだった。
とにかく家から距離を取りたくて、という精神状態に気が付いたのは今なっての事だけど、私は旅と資金稼ぎを繰り返し、かなりの距離を移動していた。いくつの領を跨いだかなんて覚えてないし、食文化だって大分違う。気が付けば、最初は閉口した堅いパンだって平気な顔で食べれる様になっていた程に長い旅路だった。
引き返すと言う護衛団から外れてしばらく。そろそろ拠点を定めた方がいいかな? なんて考えながら、財布の中身を確認して、そろそろ纏まった金策が必要だと冒険者ギルドに足を運ぶ。
運悪く、今日は美味しい仕事がなかった。
退治系の依頼は得意分野だし、護衛依頼でも良かったのに、そのどちらも張り出されていなかったのだ。まぁ、退治系は兎も角、護衛依頼は数日もすれば入る筈で、私は日銭を稼ぐ為に近場で採取活動をする事にした。
結果、森を1人で散策していたのは、ただの偶然でしかない。
その日は、「広域に弱い魔力を放って、魔力に敏感な種を呼寄せ、倒す」という1人で散策するとき限定の、隠し札を使った。
隠し札なのは、結果的に、なのだけれど。他に誰か居るとその人の魔力が邪魔でモンスターを呼寄せられないので仕方がない。魔法を専門で勉強した訳でもない人に、魔力の放出を抑えて、なんて言っても理解を得る事は出来ないだろうから。
微弱な魔力に呼寄せられるのは、人が追いかければ逃げていく様な雑魚ばかりだ。それでも、放置すると土地が荒れるとか、人に取って有要な森林資源を食い荒らすとか、討伐報告をギルドに上げれば報酬を得られるモンスターは多いし、希少性故に毛皮などが高価で売り買いされる種だっている。1人で日銭を稼ぐなら、普段は狙えない獲物を狙う位がちょうどいい。
釣れ過ぎたのは、予想外だった。
既に持ち帰れない程倒しているのに、まだまだ森の奥からやってくる。
一度強い魔力波を放って追い払うという手もあるけれど、環境への影響を考えると、あまりしたくは無い。
全部を相手にするというのも完全に無駄で、かといって逃げるというのはもっと有り得ない。雑魚に追われて討伐照明も取れずに逃げ帰っただなんてとんだお笑い種だ。
「……助力が必要か?」
どうしようかと思案している私に、突然背後から声がかけられた。
相手の方も戸惑っているようで、きっと彼から見れば何故こんなに雑魚ばかりが襲いかかって来るのか判らないからだろう。
そんな彼の言葉に、私は思わず振り向いた。
人が居るなんて思わなかったからだ。
見れば、ほんの数メートル先に少年が立っていた。彼に害意があれば、振り向く暇も無く切り込まれていただろう距離に。
人が普段無意識に放つ魔力は、それだけで雑魚を追い払える位には濃い魔力だ。これは、魔法の才能の有無に関係ない。そして、もし彼に魔法の才能があったのなら、戸惑う事はなかっただろう。何をしているのかを理解した上で、自分で解決する筈だと捨て置いた筈だから。
つまり、彼は魔法の才能など無いにも拘らず、私の魔力探知をすり抜けてそこに立っていた。
それを悟った私は、モンスターに襲われているという状況も忘れて、彼という存在に意識を向けてしまった。
慌てたのは彼の方だ。
「余所見するな!」
言うなり、彼は私の頭越しに何かを放り投げた。
それが何なのか確かめるより先に、劇的な効果を私は知った。
近づいて来ていた微弱な魔力が、急に逃げ出したからだ。
どうやら、モンスターを追い払う為の道具らしい。
雑魚と言ってもモンスターはモンスターだ。油断すれば死ぬ事もあるし、下手を打てば四肢欠損や毒を喰らう事もある。礼を言うべきなのだという事は、理性では理解できた。
しかし、相手が雑魚ばかりという事もあって、私は素直にはなれなかった。
「余計な事しないでよ」
「あー。ついな、悪かった」
冒険者同士は、基本、不干渉。最悪、死んだって教会で蘇生できるのだから、取り分で揉める様な干渉はしないに越した事はない。その不文律を犯した彼を責めると、彼は呆気なく己の非を認めた。
戦闘中に余所見をするという間抜けを晒したのは私で、それを助けたのは彼だというのに。
彼が何の弁明もせず謝罪した事で、私は準備していた二の句を放つ事が出来なかった。
そのまま森の影に消えていく背中を眺める事しか、その日は出来なかった。
引き止める暇も無く、宙に延ばした手は行き場を失って。
私は、彼が残したアイテムの庇護下で、地団駄を踏んだ。
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