ex12−2 女騎士の盾鎧
今日の狩りは、時間に対する密度が少しばかりおかしかった。
移動に2時間も掛けたのだから、普通に考えれば狩りに使える時間がその分減る。当然、戦闘の機会も減るし獲物の量も減るのが普通だろう。しかし、休みを挟みながらの定点狩りは、魔法使いを仲間に加えてからでさえ始めての高効率を実現したのは疑いの余地もない。獲物をどうやって持ち帰るか皆で頭を悩ませた程だ。
それでいて、緊張や明日に響くような疲労は無い。驚異的なペース配分だった。
つまり、力量や疲労具合、そして誘因対象であるモンスターの分布まで、斥候を担当した彼はしっかりと把握していたという事になる。偶然にしては、でき過ぎていた。
それは頼もしくもあり、恐ろしい話だ。いつだって事故に見せかけて私達を殺す事ができる……かも知れない。その可能性を、私は敢えて口にしなかった。皆を不安にさせる事は、盾の役割ではないからだ。
皆が彼を信じるのなら、私はそれに従い、非常時には盾を翳す。ただそれだけの事だ。
腕力に訴えられない代わりに能力の証明を行なったのなら、証明に併せて態度も変わるだろう。そうも思ったのだが、この予想は裏切られた。あくまでメンバーとして。あくまで斥候として。その立場を超える振る舞いはない。
それが私には不思議でならなかった。
まだ実力を見せていないメンバーが居るから? 斥候がもう1人居るから?
もし我欲の無い質だとしたら、そもそも何故冒険者になったのか。
有象無象の男性冒険者相手にはまるで抱かなかった好奇心が疼く。
そう、それは皆を護る為に必要な情報だ。彼の人となり次第で危険度は大きく変わってくるのだから。
◇◆◇
彼は稀に居る同性にしか興味の無い質では無いらしい。
しかしそれでいて私達の肌を目にして過剰に興奮するような事も無ければ、開き直って肴にし始めるような事も無い。個人の感情や衝動より利害の計算が上にある質なのだろうか。冒険者などより商人向きの人柄に思える。
もっとも、大半の商人は利害計算の中にも個人の感情を入れ込むのだが。
とりあえずは、世闇に乗じて馬鹿な真似をするような輩では無さそうだ。
無断で膝枕に飛び込んだ少女1人さえ持て余す姿は、中々に滑稽で、とても警戒する気には成れない。
もちろん、気持ち次第で警戒を解く程、私も甘えた質ではないけれど。それでも、幾らか緊張が解けたのは違いない。
彼が私達との付き合いに利益を見出だしている間は、害はないはずだ。
◇◆◇
軽く寝入って深夜。
夜番の交代に起こされると、一応、暗がりの中で私は彼を探った。
少女と女性、2人に抱きつかれて眠る影が、何とも判りやすい。
彼に対してそれぞれがどんな感情を抱くかなんて私の知る所ではないし、どうアピールするかも個々人次第だ。元々魔法使いは親密であったようだし、棍棒使いも短い付き合いの中で急激に仲を深めているらしい。
やがて結婚して身を落ち着けるのも自由だ。それは、世の女性冒険者の大半が掲げる目標の1つだろうから、私に止める権利なんてあるはずも無い。
星空の下、モンスターの気配は遠く。一応程度の見張りは、警戒しているという姿勢を示すだけで十分なので、夜目の効かない私にだってできる。
露出が多く、見た目頼りない新しい鎧は、着替えやすさという点では満点だ。何せ1人で着る事ができるのだから。以前普段使いしていた全身鎧は、慣れない人に協力を頼むと3人掛かりの大仕事になる。羞恥心にさえ目を瞑れば、性能的にも優秀で、いざという時に素早く装備出来るこちらの方が優れているのは、言うまでもない事だ。
下心満載で、世の女性剣士から冒険者まで戦いに身を置く女性全てに露出度の高い格好をさせたいなどと表明しているらしい匿名貴族同盟とやらは気に喰わないが、道具に罪は無い。
お陰で、夜番にも武装した状態で挑めるのだ。
鎧を纏うと、やはり心が引き締まる。
無防備ではないと認識出来る。
ただそれだけで、心強い。
私にとっての鎧は、多分彼にとっての鎧ではないのだろう。戦力にはなれないと強く主張する辺り、武器でもない。小道具の類いか、情報か。
そんなたわいのない思考は、暇つぶしにはちょうどいい。
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