第27回 Missing

今回、ご紹介するのは『Missing』。作者は甲田学人先生です。


空目恭一。愛や恋、純粋性などを欠片も信じていない少年。頭は良いのですが、オカルトや異常心理などに偏った知識を好んでいます。ゆえに、彼の仲間達からは「魔王」と呼ばれていました。そんなある日、恭一が一人の少女を連れてきます。その名前は近藤あやめ。恭一が女性を連れているなんて、と気になった仲間達は恭一を尾行することにしました。すると、彼らはいつの間にか異界に足を踏み入れ、あやめの声で「もう恭一は返さない」という声が聞こえてきました。異界から帰ってきた仲間達は、翌日、恭一が失踪したという報を聞きます。調べていくうちに、恭一は神隠しにあったのではないか、という仮説に辿り着くことに。恭一を救い出すため、仲間達は動きます。


恭一の仲間達には特殊な力などありません。ただの一般人の彼らは霊能力者や、心霊現象を科学で暴こうとする組織「機関」などの手を借り、恭一を救い出そうと奔走します。その先に待っているのは、希望か、それとも――。


本作は、ラノベでは比較的珍しい(のかな?)ホラー作品となっています。幻想的で文学的なタッチで紡がれる物語は、多くの読者を魅了し、シリーズ化。一躍、人気作品となりました。時に残酷で、そして美しい怪異の数々。そのせいで、登場人物の中には死を遂げてしまったり、狂ったりする者も多く存在します。民俗学や怪談話を上手く融合させたストーリーに対し、当時の白河はすっかり虜になってしまいました。繊細な心理描写や、恐怖を煽る描写がとても上手いんですよ。作者の甲田先生は本作を「ホラーではなく、メルヘン」と称しておられますが、どこがメルヘンだと言いたい。


白河のお気に入りキャラは、仲間の1人である木戸野亜紀。自称、「育ち間違えた文学少女」。ニコニコ笑って黙っていれば可憐な美少女なのですが、冷めた性格でとにかく毒舌。2巻では彼女に大きく関わる事実が明らかになるのですが、それはさすがにネタバレなので割愛。彼女のバックボーンとなるお話は、とても辛いものとなっています。もっと素直になっていいんだよ、と言ってあげたい。


本作における幸福要素はとても薄いです。先述の通り、不幸になる登場人物が多く、悲しい結末ばかり。正直言いますと、読後感は悪いです。ですが、それだけホラーとしての完成度が高いということ。ハッピーエンドばかりがラノベではありません。優しさや楽しい物語だけでなく、辛く悲しい作品を読みたい方に、どうぞ。ただし、責任は持ちません。

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