第28回 オーラバトラー戦記

今回、ご紹介するのは『オーラバトラー戦記』。作者は『機動戦士ガンダム』シリーズでお馴染みの富野由悠季監督です。


城毅(通称ジョク)は大学の夏季休暇を利用し、アメリカで軽飛行機のライセンスを取ろうとしていました。ある日、彼を追ってきた後輩、田村美井奈。美井奈を乗せ、バイクを走らせたところで、対向車線から跳ねてきたトラックと激突。そのまま死んでしまったかと思ったら、次に目覚めたときには不思議な異世界にいました。その世界の名は、バイストン・ウェル。行くあてのないジョクはアの国の戦士バーンに拾われ、オーラ・ボムと呼ばれる人型兵器のパイロットに任じられます。オーラ・ボムは人の生体エネルギーを力に変えて動く兵器。ジョクはそれに乗って戦果をあげていくことになります。美井奈との再会を信じて。


あなたは、『聖戦士ダンバイン』というアニメをご存知でしょうか。ゲーム『スーパーロボット大戦』シリーズにも何度か出演していますし、「タイトルくらいなら知っている」という方も少なくないかと思います。本作は、『聖戦士ダンバイン』の設定を踏まえつつ、オリジナルのストーリーを展開した作品です。作者はアニメを制作指揮なさった富野監督ご自身。富野監督といえば「皆殺しの富野」という異名を一時期背負っておられた方。本作ではその力を存分に発揮しています。アニメでは規制の都合で自粛されていた、容赦ない残虐シーンや性描写なども散りばめられています(富野監督が執筆なさった小説は、多くがそういった描写があるのですが)。


アニメに登場したキャラクターも何人か登場しますが、基本設定や辿る末路が異なる者もいます。ストーリーもアニメの設定や展開をところどころ利用しつつ、それらとは違った結末を迎えることも。もし「アニメは見たけど、本作を読んだことがない」という方がいらっしゃるなら。本作とアニメを比べながら読むのも一興かと思います。ただ、本当に容赦ないシーンが多いので、ご注意を。


白河のお気に入りキャラはバーン。アニメでは主人公のライバルでしたが、本作ではジョクを拾い、色々と指導してくれる良き先輩。基本的に冷静なのですが、ちょっと天然気味なところがあります。彼が迎える結末はアニメと同じなのか、それとも……。


トラックと交通事故を起こし、気がついたら異世界にいた。こんな冒頭なので、近年人気となっている異世界転生・転移ものの祖先というべきなのかもしれません。ちなみに、本作が誕生したのは1986年。そういった意味では、富野監督は時代を先取りしていたんだな、と思います。


本作と同じくバイストン・ウェルを舞台とした小説があります。タイトル名は『リーンの翼』。原作が刊行されたのは本作よりも早いのですが、その後2007年に大幅加筆修正された完全版が発売されています。もし興味がおありの方がいらっしゃるなら、完全版の方をどうぞ。

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