第18回 乙女はお姉さまに恋してる2

今回は少々、変化球の作品をご紹介させていただきます。『乙女はお姉さまに恋してる2』。作者は嵩夜あや先生です。


生まれつき銀色の髪と、女性と疑われるほどの美貌を持った主人公の少年。それらの外見だけでなく、勉学も優秀であったことなどが災いし、周囲の生徒と打ち解けることができませんでした。そのせいでイジメを受けることになり、登校拒否。塞ぎ込んだ息子のことを案じた母親は、自分がかつて通っていた女子校へと、主人公を半強制的に転入させてしまいます。女装して。それだけでなく、女子寮で生活するハメに。美しい容姿と主人公自身の演技力のおかげで、女子校の生徒達には上手く男とバレずに済みました。中でも同じ寮生でクラスメイトでもある少女とは、友人関係を築きます。ですが、女装生活は順調とばかりもいえません。この女子校では、最上級生の中から他の生徒の手本となる者を、生徒の投票で「エルダー・シスター」として選出するのです。何の因果か、主人公と友人の少女は、二人揃ってエルダーに選ばれたのでした。


本作は、アダルトゲーム『処女はお姉さまに恋してる2 ~2人のエルダー~』をシナリオライターの嵩夜あや先生ご自身の手で再構成し、ライトノベルとして出版したものです。原作のゲームは続編ものですが、前作をプレイしていなくても楽しめるよう配慮されています。ですが、前作をプレイ済みの方は、ニヤリとするシーンがありますよ(本作と前作の間を埋める作品『乙女はお姉さまに恋してる 櫻の園のエトワール』がライトノベルとして出版されており、そちらも読むとより楽しめます)。


再構成ということで、原作とはイベントシーンの発生時期が異なっていたり、原作にはなかったシーンがたくさんあったり、と原作プレイ済みの方にも楽しめるよう配慮されています。原作は恋愛ゲームでもありますので、複数人のヒロインとルートが存在しますが、それらの要素も上手く本作のストーリーに組み込まれています。


本作の魅力は、やはり主人公でしょうか。意地悪で気障な男の顔を隠し、完璧淑女として振る舞う主人公。登校拒否して周囲の人間を拒絶していた彼が、エルダーとして皆に慕われ、その期待に応えていくにつれ、成長していきます。ときには、男とバレないよう必死に頑張るせいで、自分が男であることに自信がなくなりますが。1巻の表紙を見て、メインヒロインだと思った人、残念、男でした!


原作ゲームの前作は、「主人公が女装して女子校に潜入する」ストーリーのアダルトゲームの元祖ともいえる作品です。大人気に後押しされ、続編として原作ゲームが発売。こちらも大好評となりました。なにせ、『ベストオブ美少女キャラ2010』というランキングで、たくさんのゲームのヒロイン達を押しのけ、女装した主人公が2位の座につくほどでしたから。主人公本人からすれば、複雑でしょうけれども(笑)。


白河のお気に入りキャラは、哘雅楽乃(さそう うたの)。主人公にとっては一つ年下の後輩にあたります。茶道部の部長でもある彼女は、「御前」と学内で評され、他の生徒達から悩み相談を持ちかけられることが多い少女です。そんな完璧お嬢様ではありますが、あることがきっかけで、主人公に心酔することになります。原作ゲームがコンシューマに移植された際、彼女のルートが削除され、ヒロインからサブキャラへと降格したことに涙したプレイヤーは多いはず(かく言う白河も「なんでだーっ!」と怒りましたが、「あー、たぶん、あのシーンがコンシューマゲームでは無理だったんだろうな」と悟りましたよ、ええ)。人気キャラということもあって、再構成された本作でも出番はかなりあります。原作にはなかった水着シーンも(カラーイラスト付きで)あるよ!


アダルトゲームが原作の作品ということで、正直言ってこの企画でオススメするのを躊躇ったのですが。ライトノベルとして再構成された本作は、原作の長所を殺さず、同時に原作で足りなかった部分を補った良作です。

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