第30回 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

今回、ご紹介するのは、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』。作者は直木賞受賞者の桜庭一樹先生です。


中学生の主人公、山田なぎさのクラスにある日転入してきた少女、海野藻屑。彼女は人魚を自称する、水入りのペットボトルを常に持っている、など奇怪な言動の目立つ人物でした。有名ミュージシャンの娘だということで、最初はクラスメイト達の多くが興味本位で群がっていましたが、藻屑の奇行についていけず、すぐに離れていきます。そんな中、最初から藻屑に興味を持っていなかった山田に対し、藻屑が逆に興味を抱き接近してきました。邪険にあしらおうとする山田でしたが、藻屑はそんな山田に対して無遠慮に歩み寄ってきます。奇妙な転入生との交流がそうして始まったのでした。


本作で最初に踏まえなければならないのは、一つ。この転入生、藻屑がプロローグの時点でバラバラ殺人の被害者になっている、という点です。第一発見者が、主人公のなぎさ。では、なぜ藻屑は死ななければならなかったのか。時間を巻き戻して、藻屑の転入による第一章が始まります。


本作は、今はなき富士見ミステリー文庫で出版された作品です。ミステリーといっても、藻屑を殺した犯人については、ストーリーの前半を終えるころには、何となく分かることでしょう。物語は、少女二人が現実に抗おうとする模様を描いていきます。中学生という無力な立場で、懸命に絶望からの出口を探そうとする姿。その結果は残酷にも明らかなのですが、だからこそ二人の交流が大事になってくるのです。藻屑の作中の「好きって絶望だよね」というセリフが、ページを読み進めていくにつれて、重い意味をもたらします。


白河のお気に入りキャラは、主人公の山田なぎさ。彼女は貧しい家に生まれ育ち、引きこもりの兄を持つ少女です。中学を卒業後は、進学せずに自衛隊に入るつもりでいます。なぎさは今の無力な自分を「砂糖菓子の弾丸」に例え、一人で生きることのできる「実弾」を目指しています。そんな彼女が藻屑と出会い、奇妙な友情を育んでいく様子を、桜庭先生は繊細に描写なさいました。悲劇の結末というタイムリミットが訪れるまで。


本作が世に出た後、桜庭先生は一般文芸からも作品を出版されるようになります。そして、あの直木賞を受賞。白河としては、一般文芸の中では『ファミリー・ポートレイト』が好みなのですが、ラノベではないのでここでの説明は割愛。登場人物の揺れ動く心を描写するのが上手いのは、本作と同じです。本作は現在、角川文庫から出版されていますので、ぜひ。


余談。桜庭先生といえば。ゲーム『EVE』シリーズ(正確にはシリーズ2作目の『ロストワン』ですね)のシナリオや、ノベライズをお書きになっていたころが懐かしいなあ……。あ、白河は『EVE』シリーズのファンなので、全部持っています、はい。

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