第23回 LAST KISS

今回、ご紹介するのは『LAST KISS』。作者は佐藤ケイ先生です。


主人公には歳の離れた妹がいました。無口で何を考えているのか分からない少女。正直言って、主人公は妹のことが苦手でした。そんな妹は生まれつき重病のため長期入院中。父親に言われ、久しぶりの退院日に妹を病院へ迎えに行くことになりました。最初は義務感で妹の世話をしていた主人公でしたが、幼馴染の女性の手を借りながら少しずつ関係を深めていきます。それは儚く、そして大切な思い出の数々。そして、取り戻せない記憶。


ヒロインが重病、というお話はラノベに限らず、古今東西たくさんの作品が存在します。本作と同じ電撃文庫だけでも、近年では『君は月夜に光り輝く』がありますね。前もって言いますが、本作もまたヒロインの死を避けられない作品です。その手のものとしては飾りがなく、あまりに直球で、ベタで、そして王道な内容といえるでしょう。真っ直ぐに読者の涙腺を突いてくる小説。そういった作品をお探しの方には、オススメしたい本です。


主人公は医学に無知な若者ですが、そうであるがゆえにヒロインの死を受け止めることの難しさを痛感することになります。本作は終末医療をメインに取り扱った内容であり、残り限られた時間をそれまで疎遠だった兄妹のために使われます。兄は無口な妹の気持ちを次第に理解していくのですが、一番肝心なところは分かってあげられず。時間は残酷で、巻き戻すことはできません。


兄妹の絆が深まっていく過程が、とても丁寧に描かれた作品。メインの登場人物が少ないおかげで、読者は兄妹の仲の進展に集中できます。進展と共に迫るタイムリミットに、白河は胸が締め付けられました。こういったタイプのストーリーの作品を、普段あまり読まなかったのも、切なさを後押ししました。特に終盤の演出はベタなんです、ベタなのは分かっているのに胸が締め付けられます。


白河のお気に入りキャラは幼馴染の夏尾香奈子。サバサバした性格の持ち主で、主人公にとっては何だかんだ言って頼りになる女性です。妹のことを通して、香奈子との仲も進展していくのですが……。


この企画のために、押し入れの奥から久しぶりに本作を引っ張り出してきました。先の展開は読みやすいのに、兄妹をつい応援、心配をしたくなるんですよね。変わった演出や癖のない作品を読みたい方、無性に泣ける作品を読みたい方。本作をどうぞ。

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