第22回 夕なぎの街 十八番街の迷い猫

今回、ご紹介させていただくのは『夕なぎの街 十八番街の迷い猫』。作者は渡辺まさき先生です。


錬金術師になることを夢見て、地元農家から王都へとやってきた若者、コウ。彼は師匠の借金によって路頭に迷い、働き口として居酒屋『夕凪』へと転がり込みます。その仕事に慣れてきたころ、ある雨の日に謎の少女マイカと出会います。肺炎を起こしかけていた彼女は、コウに看病されました。彼女も何らかの事情を背負った人物で、『夕凪』で働くことになります。『夕凪』には他に、コウによってメンテナンスをされている女性型の自動人形サヨリもいます。コウ、マイカ、サヨリは老主人のもとで、『夕凪』を一つの居場所としました。


そんな中、サヨリの身体機能が劣化し、不具合を訴えるようになります。サヨリの修理費用を稼ぐため、三人は、コウの知り合いである職業仲介所を通じて、手っ取り早く稼ぐことに。その仕事がきっかけで、マイカの抱える秘密と政府内の厄介事が徐々に絡み合っていき……


本作は第13回富士見ファンタジア長編小説大賞の最終選考で、惜しくも落選した作品です。ですが、本作が持つ世界観や、居酒屋『夕凪』の独特の雰囲気が編集部で好評となり、改稿して出版となりました。その評価を知って購入した白河は、読後に納得。『夕凪』のまったりとした空気は本当に居心地が良さそうで、そこで働くコウ達の距離感もいいんです。ラノベで若い男女がいながら、はっきりとしたラブコメとかはなく、かといって仕事だけの冷え切った関係というわけでもなく。仲間である彼らが助け合い、共にあたたかい空間を作っている様子が、読んでいて楽しかったです。激しいストーリー展開やバトル、ラブコメなどがなくても、作品内の佇まいが魅力的なら、それはそれで面白いんだなとしみじみと実感しました。


白河のお気に入りキャラはマナ。明るく、おしゃまな少女です。詳しい経歴などはネタバレになるので説明できませんが、彼女とマイカの仲が読んでいて和みますね。マイカの秘密と直結する彼女もまた、物語の中心に飛び込んでいくことに。


本作には続編が存在しており、そちらではコウやサヨリにクローズアップされた内容となっています。本作を読んで、「もっと『夕凪』の雰囲気を味わいたいな」と思っていただけた方は、続編もどうぞお読み下さい。

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