第21回 パララバ

今回、ご紹介するのは『パララバ』。作者は静月遠火先生です。


主人公は女子高校生の少女、遠野綾。彼女は部活の連絡係をする中で、他校の男子生徒の村瀬一哉と知り合いました。二人は電話で何度か話すうちに仲を深め、いつの間にかほのかな恋心を抱き合うように。しかし、告白のチャンスは訪れませんでした。8月30日、一哉は事故で亡くなってしまったのです。彼の通夜の晩、彼の携帯番号から電話がかかってきました。電話の声は一哉本人。その声は言います。「自分は、さっき綾の通夜に行ってきた。死んだのはお前の方ではなかったのか」と。


それぞれが死んだ並行世界で相手が生きている。二つの世界を繋ぐのは電話のみ。二人は情報交換をし、それぞれの死の原因を探っていくことになります。二つの世界が分岐したのは、おそらく8月28日。一哉がくれた一通のメールでした。それを、「あちらの世界」の一哉は綾に送っていません。その些細な違いから次第に判明していく真実とは何なのでしょうか。


本作は第15回電撃小説大賞で金賞を受賞した作品です。後書きによれば、静月先生は『タイム・リープ あしたはきのう』に影響を受け、本作を執筆なさったそうで。時間移動はありませんが、本作もまた細かな伏線がパズルのように少しずつハマっていくのが、最大の魅力でしょう。金賞にふさわしい、見事なストーリー構成だと白河は思います。綾と一哉は電話のみで二つの世界に生じた矛盾や謎を暴き、真実を突き止めていきます。二人がそれぞれの世界で死んだ原因とは?


白河のお気に入りキャラは葉月麗華。一哉の幼馴染で、同じ高校の先輩です。文芸部に所属しており、ペンネームは佐伯ラメル。一哉が彼女に協力してもらうよう、提案したのがきっかけで綾は知り合います。他人の名前を覚えるのが苦手という欠点こそあれども、基本的に冷静沈着な性格の持ち主。でも、どこかボケたような一面があるのが素敵。本人曰く、照れ屋だそうですが。


本作は、綾と一哉の「二度と会えないからこそ深まっていく絆」が丁寧に描写されています。切ないラブストーリーを読みたい方はぜひ。また、ミステリーもののラノベとしても、読み応えはあるのではないかと思います。

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