第16回 約束の国

今回、ご紹介するのは『約束の国』。作者はカルロ・ゼン先生です。


ヒルトリア。そこは、主となる民族が他民族に圧政を強いる共産主義国家でした。長年溜まっていた膿が膨らんで、国内情勢は悪化していき。理想に燃える者達の活動により、ヒルトリアは崩壊。民族自決を掲げる共和国が誕生しました。輝かしい未来が待っているのだと、国民の皆が喜んでいました。しかし、待っていたのは厳しい現実。他国からの借金は膨大に膨れ上がり、国内経済も破綻寸前。共和国の大統領である主人公は、どこで道を間違えたのだと理想に挫折し、自殺します。ところが、次に目覚めたとき、ヒルトリアで若き将校候補生だったころに、彼の時間は巻き戻っていました。最初は混乱していた主人公。しかし、もしかしたら、あの悲しい未来を変えることができるかもしれない。そう信じ、彼は体制側に身を置きます。あのときとは違う理想を胸に秘め、汚い所業に手を染めてでも、あの未来よりはマシな国を作るために。


と、あらすじを読んでみると、「どこがライトノベルだ」とおっしゃる方も大勢いらっしゃるかと思います。なにせ、本作は「ヘビィノベル」とファンに皮肉られる、あの『幼女戦記』のカルロ・ゼン先生が作者なのですから。趣味と知識が融合した結果、生み出されたのが本作です。ちなみに、1巻の帯を書いたのは、これまた民族戦争や支配階級問題などのヘビィなストーリーが人気を博した、ゲーム『タクティクスオウガ』や『ファイナルファンタジー・タクティクス』などでお馴染みのゲームクリエイター、松野泰己さん。なるほど、波長が合うわけだ。


主人公が要所で下す決断の中には、けっしてベストとは呼べないものもあります。ですが、それはあの悲しい未来を未然に防ぐための、ベターな選択です。どんどん裏で手を汚していく主人公に「おいおい、あいつ正気かよ」と思いながらも、祖国のためならばと協力してくれる候補生時代の同期達。時代のうねりと共に改革を推し進める彼らは、マシな国を作ることができるのでしょうか。


白河のお気に入りは、主人公の上司となるトルバカイン。彼もまた、国の改革のために手を汚す男です。それがどんなに悪行の数々であろうとも、どんなに挿絵で邪悪な笑顔を描かれようとも(笑)、彼もまた祖国を愛する人間の一人なのです。


本作は、軽い気持ちで読むタイプの作品ではありません。味で例えるなら、苦味や渋味をじっくりと味わうタイプの作品です。現実世界の海外情勢を参考にしながら、本作を読むのもまた一興かもしれませんね。

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