第13回 雨の日のアイリス

前回はかなり昔の作品をご紹介しましたので、今回はちょっと新しめで。

『雨の日のアイリス』。作者は松山剛先生です。


ロボットが自分で思考し、人間と共存することができる時代。ロボット研究をする女性、アンブレラ博士。彼女と一緒に暮らし、身の回りのお世話をする少女型ロボット、アイリスが主人公です。アイリスはアンブレラ博士のことが大好きでした。ただ、自分の姿はアンブレラ博士の亡くなった妹と同じもので、自分の名前もその妹と同じ。つまり、自分は妹の代用品に過ぎないのだ、ということだけが、少し気になっています。ですが、アンブレラ博士は自分に笑顔で優しく接してくれるし、自分も今の生活に満足しているので、それ以上の文句を言うことなどありえません。

そんなある日、アイリスに訪れた一つの不幸。それが彼女の運命を大きく変えることになります。


そこから始まるアイリスの人生(ロボットの場合、そう表現するのは正しいのか分かりませんが)は辛く険しいものとなります。そこで出会った二体のロボット。一体は、元気な性格の少女型ロボット、リリス。もう一体は、少々壊れかけの巨漢ロボット、ボルコフ。二体と交友を深める材料となったのが、一つのシリーズの絵本でした。アイリスは二体のために絵本を読み上げます。その絵本が、彼女達の人生や生き方を示唆する、とても大事なポイントです。


本作は、「このライトノベルがすごい!」をはじめ、多数の賞で好評価を得た人気作です。読んだことはなくても、タイトルは知っている、という方も多いのではないでしょうか。絶望から這い上がり、生きようともがくアイリス達ロボットの姿に、心打たれます。感情を持ったロボットが「生きる」ために抗う、というのはある意味ベタなお話ではあります。ですが、アイリスとアンブレラ博士の絆が丁寧に描かれていますので、物語に感情移入しやすいかと(だからこそ、中盤のあの『写真』のシーンに切なさを感じずにはいられない…)。


白河のお気に入りキャラはリリス。というよりも、リリスとボルコフの関係が気に入っています。軽口を叩くリリスと、生真面目に反応するボルコフ。二体がとても信頼し合っている姿が、後半のある展開に繋がっていて。そこに感動した方も少なくないのではないでしょうか。


本作の読後感は人によって様々かと思いますが、白河にとっては最高でした。松山先生の作品は、たとえ主人公達が辛い運命にぶつかる展開があっても、全体的に見れば「優しい作品」だなと感じます。それこそが松山先生が持つ魅力でしょう。


本作を好きになった方には、同じ松山先生の『氷の国のアマリリス』もオススメです。こちらもロボット達の生き方を描いた作品となっており、本作を読んだ後だと感じ方も変わるかと思います。

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